愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

閾値、それを超えさせない対応

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自身の主人である茅島秀青かやしましゅうせいを不穏な目付きでちらちらと見る館雀かんざく立志りっしのことを、アリシア2234-LMNは、

<要注意対象>

としてマーキングしていた。この種の人間が絡んでくることは十分に有り得るからだ。ゆえに、<要人警護仕様のメイトギア>としてはそれこそ見逃がすことはできない。主人に絡んでくるようであれば自身が対応し、何か危害を加えるような振る舞いをするのであればその体でもって盾となり、同時に警察への通報および記録を取る。そうして、自身の主人には一切の落ち度がなく相手が一方的に危害を加えてきた動かぬ証拠とするのだ。

要人警護仕様以外でもほとんどのメイトギアが備えているこの機能により、その種の事件は大幅に減っている。『やったやらない』『言った言わない』の水掛け論すら、その状況を記録したデータがあれば一目瞭然なのだから。

それでもなお危害を加えてくるような者は、

『自分は警察も法律も怖くない!』

などと考えているか、それこそ、

『この後に自分がどうなろうと構わない』

『この行いにより自分は救われる』

という、<自爆テロ>と同じ発想を持っている人間であろう。なので、<事件>そのものはゼロにはならない。また、用意周到に準備の上で意図して事件を起こす者も、ゼロにはならない。

パン一つを盗んだだけでも死刑になるような厳しい社会でさえ、盗みがなくなるようなことはなかったのと同じくだ。

けれど、事件そのものは確実に減っている。メイトギアをはじめとした徹底的なケアにより、

<事件を起こさずにいられないほどに追い詰められている者>

が減っているからである。かつては、

<失うものが何もない無敵の人>

なる者が事件を起こした時期があったとも言うが、そんな<無敵の人>さえ、そもそも事件を起こすまで追い詰められていなければそこまでしないことは、

『同じような境遇にある者が全員事件を起こすわけではない』

ことからも明らかである。本人の<閾値>の高い低いはあったとしても、要はその閾値に届かなければそれでいいのだ。

例え、ストレス発散のために<ラブドール>などの特殊用途のロボットをあてがったとしてもである。

しかし、ここ、<明帆野あけぼの>には、そのためのロボットはいない。港湾施設にレイバーギアが一体、診療所にメイトギアが二体。それがすべてだ。今、館雀立志が秀青に言いがかりをつけようとしても、対応できるのはアリシア2234-LMNしかいない。彼女がいれば十分ではあるものの、それはたまたま秀青が彼女を連れているだけの話である。

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