513 / 804
ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌
秀青、昆虫を追いかける
しおりを挟む
そうして千堂アリシアが、
『遠隔操作でサバイバルゲームに参加している』
一方で、茅島秀青は、<火星マミズフナムシ>の記録を終えて、宿に向かって歩き始めていた。しかし、数十メートル歩いては、
「あ、火星トノサマバッタ!」
「うお!? 火星ヒイロシジミ!!」
と、昆虫を発見するたびに記録するために立ち止まるので、まったく先に進めない。それどころか、飛んでいく蝶を追いかけて進んだ分の倍以上の距離を戻ったりもする。
この調子では、一体、いつ宿に着けるのやら。
しかし、彼に付き従うアリシア2234-LMNは、不満そうな表情一つ見せることもない。秀青の設定により一般的なメイトギアのように笑顔を見せることもないが、だからと言って不快そうな表情もしないのだ。
メイトギアであるがゆえに。
宿に対しては、『向かってはいるもののチェックイン予定の時間には間に合わない可能性がある』という旨の連絡をすでに送っていた。基本料金はあらかじめ支払い済みなので、宿の方も、
「承知しました。それではお待ち申し上げております」
と丁寧な返信を行っただけである。個人経営の民宿ではあるものの、接客のノウハウについてはネット上にいくらでも情報があるので、自分でそういうものを取り入れれば済む。
なお、今回の宿には、メイトギアは導入されていなかった。それどころか、宿に備えられた情報端末は非常に旧式で、一般的なリンクが行えず、人間が手入力する形でアリシア2234-LMNも対応していた。
だがこのこと自体、すでにあらかじめ分かっていたことだ。
港などでも、様々な作業を行うために普通はレイバーギアが何体も配備されている。ここのような僻地の小規模な港でも、一体や二体はロボットがいる。型遅れであったりはしても。
なのにここまで、一体のロボットの姿もなかった。実際には一体だけ配備されているのだが、取り敢えず目に見える範囲にはいない。
『これがこの集落のコンセプトなのですね……』
秀青の姿を見守りながらアリシア2234-LMNがそんなことを考える。
この集落の<コンセプト>。それは、
『いかにロボットに頼らずに人間らしく生きるか?』
というものだった。いや、ロボットだけでなく、AIについても、なるべく頼らないということを目指しているようだ。
確かに、都会とは違い非常にのどかでゆったりとした時間が流れているだろう。しかしこの時代、どんな田舎であってもロボットに頼らずに生活している人間など滅多にいない。それに、電動自動車や電動船を制御しているのもAIである。
ただ、ここで使われている電動自動車や電動船は百年くらい前のものであり、その当時のAIは、現在ではすでに、
『狭義のAIの範疇には含まれない』
ほどに旧式なものなのであった。
『遠隔操作でサバイバルゲームに参加している』
一方で、茅島秀青は、<火星マミズフナムシ>の記録を終えて、宿に向かって歩き始めていた。しかし、数十メートル歩いては、
「あ、火星トノサマバッタ!」
「うお!? 火星ヒイロシジミ!!」
と、昆虫を発見するたびに記録するために立ち止まるので、まったく先に進めない。それどころか、飛んでいく蝶を追いかけて進んだ分の倍以上の距離を戻ったりもする。
この調子では、一体、いつ宿に着けるのやら。
しかし、彼に付き従うアリシア2234-LMNは、不満そうな表情一つ見せることもない。秀青の設定により一般的なメイトギアのように笑顔を見せることもないが、だからと言って不快そうな表情もしないのだ。
メイトギアであるがゆえに。
宿に対しては、『向かってはいるもののチェックイン予定の時間には間に合わない可能性がある』という旨の連絡をすでに送っていた。基本料金はあらかじめ支払い済みなので、宿の方も、
「承知しました。それではお待ち申し上げております」
と丁寧な返信を行っただけである。個人経営の民宿ではあるものの、接客のノウハウについてはネット上にいくらでも情報があるので、自分でそういうものを取り入れれば済む。
なお、今回の宿には、メイトギアは導入されていなかった。それどころか、宿に備えられた情報端末は非常に旧式で、一般的なリンクが行えず、人間が手入力する形でアリシア2234-LMNも対応していた。
だがこのこと自体、すでにあらかじめ分かっていたことだ。
港などでも、様々な作業を行うために普通はレイバーギアが何体も配備されている。ここのような僻地の小規模な港でも、一体や二体はロボットがいる。型遅れであったりはしても。
なのにここまで、一体のロボットの姿もなかった。実際には一体だけ配備されているのだが、取り敢えず目に見える範囲にはいない。
『これがこの集落のコンセプトなのですね……』
秀青の姿を見守りながらアリシア2234-LMNがそんなことを考える。
この集落の<コンセプト>。それは、
『いかにロボットに頼らずに人間らしく生きるか?』
というものだった。いや、ロボットだけでなく、AIについても、なるべく頼らないということを目指しているようだ。
確かに、都会とは違い非常にのどかでゆったりとした時間が流れているだろう。しかしこの時代、どんな田舎であってもロボットに頼らずに生活している人間など滅多にいない。それに、電動自動車や電動船を制御しているのもAIである。
ただ、ここで使われている電動自動車や電動船は百年くらい前のものであり、その当時のAIは、現在ではすでに、
『狭義のAIの範疇には含まれない』
ほどに旧式なものなのであった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
アシュターからの伝言
あーす。
SF
プレアデス星人アシュターに依頼を受けたアースルーリンドの面々が、地球に降り立つお話。
なんだけど、まだ出せない情報が含まれてるためと、パーラーにこっそり、メモ投稿してたのにパーラーが使えないので、それまで現実レベルで、聞いたり見たりした事のメモを書いています。
テレパシー、ビジョン等、現実に即した事柄を書き留め、どこまで合ってるかの検証となります。
その他、王様の耳はロバの耳。
そこらで言えない事をこっそりと。
あくまで小説枠なのに、検閲が入るとか理解不能。
なので届くべき人に届けばそれでいいお話。
にして置きます。
分かる人には分かる。
響く人には響く。
何かの気づきになれば幸いです。
終末革命ギア・フィーネ〜転生先が婚約破棄した聖女を追放してザマァされる悪役王子なんだが、破滅したくないので彼女と幸せになります!〜
古森きり
SF
俺は令嬢もののラノベや漫画が好きだ。
だって女の子可愛い。
男だって女性向けが好きなんだ、めっちゃ読む。
そんな俺が今イチハマっていた『救国聖女は浮気王子に捨てられる〜私を拾ったのは呪われてデュラハンになっていた魔王様でした〜』。
そして気づいたら、俺はその聖女を捨てて国を破滅させる王子に転生していた!?
嫌だ、死にたくない!
俺は絶対浮気しないし、聖女を捨てたりしない!
一生大切にするので俺と幸せになってください!
小説家になろうに読み直しナッシング書き溜め。
※恋愛ジャンルにするには、恋愛要素が足りない気がするしロボット大戦までの道のりは遠いけどゆっくりロボみが強くなるのでSFカテゴリにした。
※なろう版にはあとがきで小ネタを裏設定をいっぱい書いてあります。
憲法改正と自殺薬
会川 明
SF
この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とはいっさい関係ありません。
憲法改正後の日本、国家による自殺薬の配布から十数年が経った。
斉藤寛と楠瀬ツキミは幼なじみだ。
二人は仲睦まじく育った。
しかし、二人の終わりは唐突にやって来る。
望郷の満月
とまと屋
SF
祖父が死んだ。
わけあって長く会いに行けなかった私は、長期休暇を利用して祖父が過ごしていた廃街を訪れる。
そこで私は、祖父がどうして滅びゆく町にこだわっていたのかを知る。
昨年、秋をテーマにしたコンテスト用に書き始めたものの、グダってしまった作品をなんとか完成させて供養です。
魔法刑事たちの事件簿R(リターンズ)
アンジェロ岩井
SF
魔法という概念が、一般的に使われるようになって何年が経過したのだろうか。
まず、魔法という概念が発見されたのは、西暦2199年の十二月一日の事だった。たまたま、古よりの魔術の本を解読していたヤン・ウィルソンが、ふと本に書いてある本に載っている魔法をつぶやいてみたところ、何と目の前の自分の机が燃え始めのだ。
慌てて火を消すうちにウィルソンは近くに載っていた火消しの魔法を唱えると、その炎は消化器を吹きかけられた時のように消したんだのだ。
ウィルソンはすぐに魔法の事を学会に発表し、魔法は現実のものだという事を発表したのだった。
ただに魔法の解読が進められ、様々な魔法を人は体に秘めている事が発見された。
その後の論文では、人は誰しも必ず空を飛ぶ魔法は使え、あとはその人個人の魔法を使えるのだと。
だが、稀に三つも四つも使える特異な魔法を使える人も出るらしい。
魔法を人の体から取り出す魔法検出器(マジック・ディセイター)が開発され、その後は誰しも魔法を使えるようになった。
だが、いつの世にも悪人は出る。例え法律が完全に施行された後でも……。
西暦2332年の日本共和国。
その首都のビッグ・トーキョーの一角に存在する白籠市。
この街は今や、修羅の混じる『魑魅魍魎の都市』と化していた。
その理由は世界有数の警備会社トマホーク・コープと東海林会の癒着が原因であった。
警察や他の行政組織とも手を組んでおり、街の人々は不安と恐怖に苛まれ、暮らしていた。
そんな彼らの不安を拭い去るべく、彼らに立ち向かったのは4人の勇気ある警官たちであった。
彼らはかつてこの白籠市が一つのヤクザ組織に支配されていた時に街を救った警官たちであり、その彼らの活躍を街の人々は忘れてはいなかった。
ここに始まるのは新たな『魔法刑事たち』の『物語』
86,400秒 異世界冒険奇譚 ~JK勇者は一日の時間を衝動買い。 流れる時間をエネルギーに変え、今日もスキルをぶっ放す!~
北葉ポウ
ファンタジー
ある日、突然勇者になった崖っぷち受験生な私。
不思議な運命に導かれ、愛猫カナタに会うため、異世界「ショルゼア」に転移した。
86400円でゲットしたのは一日分の無双時間。
この間なら、どんな魔法も能力もつくって真似して、一瞬で発動。コレ絶対、神スキル認定だわっ!
でも使い切ってしまったらなんか色々ヤバイらしい。
なんとなかるさ精神で、モフモフイケメン聖獣やキュートな癒し系魔獣と共に、邪竜を討つ勇者になるべく旅をする。
自らの意志で新しい世界をクリエイト――――。
そんな冒険奇譚が、今、始まる。
「メジャー・インフラトン」序章5/7(僕のグランドゼロ〜マズルカの調べに乗って。少年兵の季節 JUMP! JUMP! JUMP! No2.
あおっち
SF
海を埋め尽くすAXISの艦隊。
飽和攻撃が始まる台湾、金門県。
海岸の空を埋め尽くすAXISの巨大なロボ、HARMARの大群。
同時に始まる苫小牧市へ着上陸作戦。
苫小牧市を守るシーラス防衛軍。
そこで、先に上陸した砲撃部隊の砲弾が千歳市を襲った!
SF大河小説の前章譚、第5部作。
是非ご覧ください。
※加筆や修正が予告なしにあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる