愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットドクター、アリシアのドタバタ診療日誌

秀青、昆虫を追いかける

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そうして千堂アリシアが、

『遠隔操作でサバイバルゲームに参加している』

一方で、茅島秀青かやしましゅうせいは、<火星マミズフナムシ>の記録を終えて、宿に向かって歩き始めていた。しかし、数十メートル歩いては、

「あ、火星トノサマバッタ!」

「うお!? 火星ヒイロシジミ!!」

と、昆虫を発見するたびに記録するために立ち止まるので、まったく先に進めない。それどころか、飛んでいく蝶を追いかけて進んだ分の倍以上の距離を戻ったりもする。

この調子では、一体、いつ宿に着けるのやら。

しかし、彼に付き従うアリシア2234-LMNは、不満そうな表情一つ見せることもない。秀青しゅうせいの設定により一般的なメイトギアのように笑顔を見せることもないが、だからと言って不快そうな表情もしないのだ。

メイトギアであるがゆえに。

宿に対しては、『向かってはいるもののチェックイン予定の時間には間に合わない可能性がある』という旨の連絡をすでに送っていた。基本料金はあらかじめ支払い済みなので、宿の方も、

「承知しました。それではお待ち申し上げております」

と丁寧な返信を行っただけである。個人経営の民宿ではあるものの、接客のノウハウについてはネット上にいくらでも情報があるので、自分でそういうものを取り入れれば済む。

なお、今回の宿には、メイトギアは導入されていなかった。それどころか、宿に備えられた情報端末は非常に旧式で、一般的なリンクが行えず、人間が手入力する形でアリシア2234-LMNも対応していた。

だがこのこと自体、すでにあらかじめ分かっていたことだ。

港などでも、様々な作業を行うために普通はレイバーギアが何体も配備されている。ここのような僻地の小規模な港でも、一体や二体はロボットがいる。型遅れであったりはしても。

なのにここまで、一体のロボットの姿もなかった。実際には一体だけ配備されているのだが、取り敢えず目に見える範囲にはいない。

『これがこの集落のコンセプトなのですね……』

秀青しゅうせいの姿を見守りながらアリシア2234-LMNがそんなことを考える。

この集落の<コンセプト>。それは、

『いかにロボットに頼らずに人間らしく生きるか?』

というものだった。いや、ロボットだけでなく、AIについても、なるべく頼らないということを目指しているようだ。

確かに、都会とは違い非常にのどかでゆったりとした時間が流れているだろう。しかしこの時代、どんな田舎であってもロボットに頼らずに生活している人間など滅多にいない。それに、電動自動車や電動船を制御しているのもAIである。

ただ、ここで使われている電動自動車や電動船は百年くらい前のものであり、その当時のAIは、現在ではすでに、

『狭義のAIの範疇には含まれない』

ほどに旧式なものなのであった。

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