愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット忍者、アリシアの街角忍法帳

試作品三号、全力で挑む

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「ヒュッ!」

<試作品三号>は、短く鋭く息を吐いた後、手にしていた<ハンドカノン>を、突然投げ上げた。

「!?」

その意味不明な行動にアリシアが意識をそちらに向けた瞬間、<試作品三号>は弾かれたようにアリシアに向けて奔った。

もっとも、こんなフェイントが通用するのは人間だけである。本当なら。けれど、アリシアはついハンドカノンの方に意識を向けてしまった。いや、正確には、普通のアリシアシリーズなら両方を同時に認識し対応できるはずが、千堂アリシアにはそれは完全にはできなかった。

戦闘モードを起動すればまだマシだったかもしれないとしても、現在の彼女は<危機対応モード>で稼働中だったのだ。別に敵を殺傷する予定はなかったので、これで十分だったはずなのである。

要人警護仕様のメイトギアとしては十全な性能を発揮できなくても、人間が相手なら本来はこれでもオーバースペックのはずなのだ。

なのに<試作品三号>は、クグリと同じくとても人間とは思えない動きで彼女に迫る。右の掌底が、彼女の腹を捉えていた。

「!?」

生身の人間ならおそらくこの一撃で動けなくなっていただろう。それどころか、標準仕様のメイトギアでは機能不全を起こしかねないほどの威力。千堂アリシアが要人警護仕様のメイトギアだからこそ耐えることができた。

そもそも、普通の人間では当てることすらできないはずだが。

最小限の動きで最大限の威力を得る。人間ならどうしても出てしまう<無駄な動き>がほとんどないため、ロボットの動きについていけてしまう。しかもクグリは、その上でロボットの動きを完全に読んでいて、ロボットが動く先に『攻撃を置く』ことで、自分より早く動けるロボットに対処できていた。つまり、見た目上はクグリの攻撃にロボットの方が当たりに行っている形になるのだ。

理論上、ロボットは動きが正確で、かつ、プログラムされた動きしかできないため、それを読まれると対処できてしまうという。もっともそれも、クグリやこの<試作品三号>のような身体能力があってこそのものだが。加えて<格闘センス>が求められるのか。身体能力という点ではあの<サイボーグの男>も十分なはずだったのだが、自身のサイボーグボディの性能に頼り切った戦い方しかできなかったことで、一方的に打ちのめされたのである。

アリシアも、初撃の掌底以降は<試作品三号>の攻撃をかろうじて受け流すものの、完全に躱すには至っていなかった。クグリと戦った経験があり、かつ、彼女自身の体捌きがあればこそのものとはいえ、間違いなく苦戦していたのだった。

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