愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット忍者、アリシアの街角忍法帳

軽薄そうな男、利用される

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<軽薄そうな男>が<小さなパッケージに入った得体の知れないもの>を売り歩くようになったのはまだ十一歳の時だった。

『どうしてそんなものを子供に任せる?』

と思うかもしれないが、その中身は非常に濃度の低い安価な<ドラッグ>であり、単にそれをばら撒かせて気軽に利用させ、その程度では満足できなくなった者をさらに高価なドラッグに誘引するための<撒き餌>だったのだ。だから、売上金も回収しなかったし、商品の受け渡しも、空きビルのポストに放り込んでおくだけという、

『いつでも切り捨てられる状態で』

子供を利用していただけである。

そして<軽薄そうな男>はドラッグを売り歩いた金で刺青シールを買って体中に貼っていったが、十二歳の時についに警察に補導され、施設へと送られた。我が子の非行を理由に両親が引き取りを拒んだからだ。

こうして両親に捨てられた<軽薄そうな男>は施設で矯正教育を受けることになったものの、この時点でもうすでに心底大人を信用していなかった彼には届かず、それは成功しなかった。

十五歳の時に施設を脱走。かつてつるんでいた<悪い仲間>と再会、合流し、

<大人になった証>

として、シールではない<本物の刺青>を首筋に入れた。<軽薄そうな男>は、それで自分も一人前になれたと高揚感を覚えたらしい。

もっとも、そんなものはただの幻想だ。己の行動に責任も持たず、ただ好き勝手に振る舞うだけの輩を、<大人>などとは呼ばない。そういうのは、

<体だけ大きくなった子供>

だ。

しかも、

<自分を大人だと思い込んでいるだけの子供>

である。

しかし、彼の周囲にいる者達も基本的には同類なので、誰もそれを教えてはくれない。

こうして<軽薄そうな男>は、その場その場の享楽だけを求める、ただただ浮ついただけの人間になっていった。

それ以外には何もない。信念も、矜持も、思想も、何一つ持たない、

<血の詰まった水風船>

も同然の存在になっていったのだ。

するとそんな<軽薄そうな男>は、ビルの窓から身を乗り出して、何か面白そうなものはないかと探し始めた。

だがその時、老朽化したまま満足にメンテナンスも受けてこなかったビルの窓枠が、何の前触れもなくガタンと外れ、彼の体は支えを失い、七階から地面へと真っ逆さまに落ちていった。

「え……?」

<軽薄そうな男>は、自分の身に何が起こったのかすぐには理解できず、実に間抜けな表情になった。

下はアスファルト。打ち付けられれば間違いなく、本当に、<血の詰まった水風船>となるのは確実なのだった。

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