愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット探偵、アリシアの路地裏探検記

千堂アリシア、なんとなく察する

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こうして、ジョン・牧紫栗まきしぐりが潜伏していたとみられる部屋の捜索は、三十分ほどで終わることとなった。

とは言え、これといった収穫もない。ジョン・牧紫栗まきしぐりが今、どこに潜伏しているのかを匂わせる手掛りさえなかった。おそらく、情報はすべて端末で行い、それ以外はほとんど持たないようにしているのだろう。

ただ、クローゼットの中に、猫用の缶詰が一ダース入る空箱が残されていたので、そうやってまとめ買いしてナニーニに与えていたのだろうというのは窺えた。

そして同時に、その箱には、手書きで乱雑に、

『ナニーニ』

『コデット』

とだけ小さく書かれていた。

それを見付けた刑事が、

「これは……?」

と呟いた時に、その文字を見たアリシアが、思わず、

「ゲームのキャラクターの名前に同じものがあります」

と口にしてしまったので、

「ああ……」

刑事が明らかにがっかりしたように声を漏らした。『何かの暗号かもしれない』と思ったようだ。

けれど、アリシアはそれを見て、なんとなく察してしまった。

『ここにいたジョン・牧紫栗まきしぐりが、ナニーニと呼び始めたのかもしれないですね……コデットさんがこの近所でよく遊んでいて、彼女の名前を呼ぶ人もいて、<ORE-TUEEE!>のキャラクター<コデット>と同じ名前を耳にして、それで自分に懐いていた猫を<ナニーニ>と呼び始めた感じでしょうか……』

無論、それは、何の根拠もない、<推測>と呼ぶにも程遠い、<憶測><想像><妄想>の類でしかなかったものの、アリシアにとってはそう考えると納得ができてしまった。

それが事実かどうかはともかくとして、後の聞き込みで、この部屋の住人が、窓から、

「ナニーニ!」

と声を上げて猫を呼んでいた姿が目撃されていたことが分かった。ただし、その時の風貌は、指名手配の写真とは似ても似つかない、スキンヘッドでいくつものピアスを付けた、やや強面のそれだったらしいが。

<変装>なのか、事件を起こしたことで何かが吹っ切れてしまったのかは分からないものの、これにより、周辺の住人にも<ジョン・牧紫栗まきしぐり>であることに気付かれなかったのだろう。加えて、<もてぎ荘>には他の都市の出身者として偽名で契約して入居。アリシアも給与代わりにJAPAN-2ジャパンセカンドから受け取っている電子マネーと同じもので二年分の家賃を一括で支払っていたため、<ジョン・牧紫栗まきしぐりとしての足跡>は残らなかったというわけだ。

かように、目立った成果はなかったものの、警察としては、

<『ナニーニ』『コデット』と記された空き箱>

が本当に他に何か意味を持つものではないかどうかを確認するために、証拠品として押収することにしたのだった。

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