395 / 804
ロボット探偵、アリシアの路地裏探検記
千堂アリシア、なんとなく察する
しおりを挟む
こうして、ジョン・牧紫栗が潜伏していたとみられる部屋の捜索は、三十分ほどで終わることとなった。
とは言え、これといった収穫もない。ジョン・牧紫栗が今、どこに潜伏しているのかを匂わせる手掛りさえなかった。おそらく、情報はすべて端末で行い、それ以外はほとんど持たないようにしているのだろう。
ただ、クローゼットの中に、猫用の缶詰が一ダース入る空箱が残されていたので、そうやってまとめ買いしてナニーニに与えていたのだろうというのは窺えた。
そして同時に、その箱には、手書きで乱雑に、
『ナニーニ』
『コデット』
とだけ小さく書かれていた。
それを見付けた刑事が、
「これは……?」
と呟いた時に、その文字を見たアリシアが、思わず、
「ゲームのキャラクターの名前に同じものがあります」
と口にしてしまったので、
「ああ……」
刑事が明らかにがっかりしたように声を漏らした。『何かの暗号かもしれない』と思ったようだ。
けれど、アリシアはそれを見て、なんとなく察してしまった。
『ここにいたジョン・牧紫栗が、ナニーニと呼び始めたのかもしれないですね……コデットさんがこの近所でよく遊んでいて、彼女の名前を呼ぶ人もいて、<ORE-TUEEE!>のキャラクター<コデット>と同じ名前を耳にして、それで自分に懐いていた猫を<ナニーニ>と呼び始めた感じでしょうか……』
無論、それは、何の根拠もない、<推測>と呼ぶにも程遠い、<憶測><想像><妄想>の類でしかなかったものの、アリシアにとってはそう考えると納得ができてしまった。
それが事実かどうかはともかくとして、後の聞き込みで、この部屋の住人が、窓から、
「ナニーニ!」
と声を上げて猫を呼んでいた姿が目撃されていたことが分かった。ただし、その時の風貌は、指名手配の写真とは似ても似つかない、スキンヘッドでいくつものピアスを付けた、やや強面のそれだったらしいが。
<変装>なのか、事件を起こしたことで何かが吹っ切れてしまったのかは分からないものの、これにより、周辺の住人にも<ジョン・牧紫栗>であることに気付かれなかったのだろう。加えて、<もてぎ荘>には他の都市の出身者として偽名で契約して入居。アリシアも給与代わりにJAPAN-2から受け取っている電子マネーと同じもので二年分の家賃を一括で支払っていたため、<ジョン・牧紫栗としての足跡>は残らなかったというわけだ。
かように、目立った成果はなかったものの、警察としては、
<『ナニーニ』『コデット』と記された空き箱>
が本当に他に何か意味を持つものではないかどうかを確認するために、証拠品として押収することにしたのだった。
とは言え、これといった収穫もない。ジョン・牧紫栗が今、どこに潜伏しているのかを匂わせる手掛りさえなかった。おそらく、情報はすべて端末で行い、それ以外はほとんど持たないようにしているのだろう。
ただ、クローゼットの中に、猫用の缶詰が一ダース入る空箱が残されていたので、そうやってまとめ買いしてナニーニに与えていたのだろうというのは窺えた。
そして同時に、その箱には、手書きで乱雑に、
『ナニーニ』
『コデット』
とだけ小さく書かれていた。
それを見付けた刑事が、
「これは……?」
と呟いた時に、その文字を見たアリシアが、思わず、
「ゲームのキャラクターの名前に同じものがあります」
と口にしてしまったので、
「ああ……」
刑事が明らかにがっかりしたように声を漏らした。『何かの暗号かもしれない』と思ったようだ。
けれど、アリシアはそれを見て、なんとなく察してしまった。
『ここにいたジョン・牧紫栗が、ナニーニと呼び始めたのかもしれないですね……コデットさんがこの近所でよく遊んでいて、彼女の名前を呼ぶ人もいて、<ORE-TUEEE!>のキャラクター<コデット>と同じ名前を耳にして、それで自分に懐いていた猫を<ナニーニ>と呼び始めた感じでしょうか……』
無論、それは、何の根拠もない、<推測>と呼ぶにも程遠い、<憶測><想像><妄想>の類でしかなかったものの、アリシアにとってはそう考えると納得ができてしまった。
それが事実かどうかはともかくとして、後の聞き込みで、この部屋の住人が、窓から、
「ナニーニ!」
と声を上げて猫を呼んでいた姿が目撃されていたことが分かった。ただし、その時の風貌は、指名手配の写真とは似ても似つかない、スキンヘッドでいくつものピアスを付けた、やや強面のそれだったらしいが。
<変装>なのか、事件を起こしたことで何かが吹っ切れてしまったのかは分からないものの、これにより、周辺の住人にも<ジョン・牧紫栗>であることに気付かれなかったのだろう。加えて、<もてぎ荘>には他の都市の出身者として偽名で契約して入居。アリシアも給与代わりにJAPAN-2から受け取っている電子マネーと同じもので二年分の家賃を一括で支払っていたため、<ジョン・牧紫栗としての足跡>は残らなかったというわけだ。
かように、目立った成果はなかったものの、警察としては、
<『ナニーニ』『コデット』と記された空き箱>
が本当に他に何か意味を持つものではないかどうかを確認するために、証拠品として押収することにしたのだった。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした
田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。
しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。
そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。
そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。
なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。
あらすじを読んでいただきありがとうございます。
併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。
より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!
200万年後 軽トラで未来にやってきた勇者たち
半道海豚
SF
本稿は、生きていくために、文明の痕跡さえない200万年後の未来に旅立ったヒトたちの奮闘を描いています。
最近は温暖化による環境の悪化が話題になっています。温暖化が進行すれば、多くの生物種が絶滅するでしょう。実際、新生代第四紀完新世(現在の地質年代)は生物の大量絶滅の真っ最中だとされています。生物の大量絶滅は地球史上何度も起きていますが、特に大規模なものが“ビッグファイブ”と呼ばれています。5番目が皆さんよくご存じの恐竜絶滅です。そして、現在が6番目で絶賛進行中。しかも理由はヒトの存在。それも産業革命以後とかではなく、何万年も前から。
本稿は、2015年に書き始めましたが、温暖化よりはスーパープルームのほうが衝撃的だろうと考えて北米でのマントル噴出を破局的環境破壊の惹起としました。
第1章と第2章は未来での生き残りをかけた挑戦、第3章以降は競争排除則(ガウゼの法則)がテーマに加わります。第6章以降は大量絶滅は収束したのかがテーマになっています。
どうぞ、お楽しみください。
凶竜の姫様
京衛武百十
SF
ここは、惑星<朋群(ほうむ)>。多数のロボットに支えられ、様々な特色を持った人間達が暮らす惑星。そこで鵺竜(こうりゅう)と呼ばれる巨大な<竜>について研究する青年、<錬義(れんぎ)>は、それまで誰も辿り着いたことのない地に至り、そこで一人の少女と出逢う。少女の名前は<斬竜(キル)>。かつて人間を激しく憎み戦ったという<竜女帝>の娘にして鵺竜の力を受け継ぐ<凶竜の姫>であった。
こうして出逢った斬竜に錬義は戸惑いながらも、彼女を見守ることにしたのだった。
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
四季
恋愛
晩餐会の会場に、ぱぁん、と乾いた音が響きました。
どうやら友人でもある女性が婚約破棄されてしまったようです。
ビースト・オンライン 〜追憶の道しるべ。操作ミスで兎になった俺は、仲間の記憶を辿り世界を紐解く〜
八ッ坂千鶴
SF
普通の高校生の少年は高熱と酷い風邪に悩まされていた。くしゃみが止まらず学校にも行けないまま1週間。そんな彼を心配して、母親はとあるゲームを差し出す。
そして、そのゲームはやがて彼を大事件に巻き込んでいく……!
アルビオン王国宙軍士官物語(クリフエッジシリーズ合本版)
愛山雄町
SF
ハヤカワ文庫さんのSF好きにお勧め!
■■■
人類が宇宙に進出して約五千年後、地球より数千光年離れた銀河系ペルセウス腕を舞台に、後に“クリフエッジ(崖っぷち)”と呼ばれることになるアルビオン王国軍士官クリフォード・カスバート・コリングウッドの物語。
■■■
宇宙暦4500年代、銀河系ペルセウス腕には四つの政治勢力、「アルビオン王国」、「ゾンファ共和国」、「スヴァローグ帝国」、「自由星系国家連合」が割拠していた。
アルビオン王国は領土的野心の強いゾンファ共和国とスヴァローグ帝国と戦い続けている。
4512年、アルビオン王国に一人の英雄が登場した。
その名はクリフォード・カスバート・コリングウッド。
彼は柔軟な思考と確固たる信念の持ち主で、敵国の野望を打ち砕いていく。
■■■
小説家になろうで「クリフエッジシリーズ」として投稿している作品を合本版として、こちらでも投稿することにしました。
■■■
小説家になろう、カクヨム、ノベルアップ+でも投稿しております。
理想の男性(ヒト)は、お祖父さま
たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。
そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室?
王太子はまったく好みじゃない。
彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。
彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。
そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった!
彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。
そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。
恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。
この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?
◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。
本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。
R-Kingdom_1
他サイトでも掲載しています。
法術装甲隊ダグフェロン 永遠に続く世紀末の国で 『特殊な部隊』の初陣
橋本 直
SF
その文明は出会うべきではなかった
その人との出会いは歓迎すべきものではなかった
これは悲しい『出会い』の物語
『特殊な部隊』と出会うことで青年にはある『宿命』がせおわされることになる
地球人が初めて出会った地球外生命体『リャオ』の住む惑星遼州。
理系脳の多趣味で気弱な『リャオ』の若者、神前(しんぜん)誠(まこと)がどう考えても罠としか思えない経緯を経て機動兵器『シュツルム・パンツァー』のパイロットに任命された。
彼は『もんじゃ焼き製造マシン』のあだ名で呼ばれるほどの乗り物酔いをしやすい体質でそもそもパイロット向きではなかった。
そんな彼がようやく配属されたのは遼州同盟司法局実働部隊と呼ばれる武装警察風味の『特殊な部隊』だった。
そこに案内するのはどう見ても八歳女児にしか見えない敗戦国のエースパイロット、クバルカ・ラン中佐だった。
さらに部隊長は誠を嵌(は)めた『駄目人間』の見た目は二十代、中身は四十代の女好きの中年男、嵯峨惟基の駄目っぷりに絶望する誠。しかも、そこにこれまで配属になった五人の先輩はすべて一週間で尻尾を撒いて逃げ帰ったという。
司法局実動部隊にはパイロットとして銃を愛するサイボーグ西園寺かなめ、無表情な戦闘用人造人間カウラ・ベルガーの二人が居た。運用艦のブリッジクルーは全員女性の戦闘用人造人間『ラスト・バタリオン』で構成され、彼女達を率いるのは長身で糸目の多趣味なアメリア・クラウゼだった。そして技術担当の気のいいヤンキー島田正人に医務室にはぽわぽわな詩を愛する看護師神前ひよこ等の個性的な面々で構成されていた。
その個性的な面々に戸惑う誠だが妙になじんでくる先輩達に次第に心を開いていく。
そんな個性的な『特殊な部隊』の前には『力あるものの支配する世界』を実現しようとする『廃帝ハド』、自国民の平和のみを志向し文明の進化を押しとどめている謎の存在『ビックブラザー』、そして貴族主義者を扇動し宇宙秩序の再編成をもくろむネオナチが立ちはだかった。
そんな戦いの中、誠に眠っていた『力』が世界を変える存在となる。
その宿命に誠は耐えられるか?
SFお仕事ギャグロマン小説。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる