愛しのアリシア

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
273 / 804
ロボット勇者、アリシアの電脳異世界冒険記

搦め手

しおりを挟む
ラウルは、人格も精神も破綻しているものの、同時に、

『ちっ! 火炎系の魔術であれば、この周囲ごと丸焼きにしてやるのに……!』

そんな風に考えられる冷淡さも兼ね備えていた。彼の火炎魔術は強力で、確かにこの付近一帯を火の海に変えることも造作もなかった。

とはいえ、そんなことをすればゴクソツの傘下にある店なども焼失してしまうことになるので、さすがにそれはマズい。

そういう判断はできるということだ。

もっとも、あくまで『ゴクソツの利になるかどうか?』というのが基準ではある。

そんなわけで、必ずしも得意ではないものの、<からめ手>で攻めることにする。

「!?」

アリシアは自身の周囲の気温が急激に下がってきていることを察した。

と、地面に足を着いた途端に、靴が貼り付いて動かなくなる。

凍り付いたのだ。氷結魔術だった。火炎系の魔術は得意なラウルだったものの、氷結系の魔術はあまり得意ではなかった。

が、それはあくまで『火炎系に比べれば』という話でしかなく。『氷結系が得意』と自称する並の魔術師など足元にも及ばない強力なそれを使えるのだが。だからこそ、瞬時に靴が凍り付いて地面に貼り付くほどの芸当もやってのけるのだ。

アリシアも、すぐさま力尽くで引き剥がすものの、一瞬、動きが止まる。それがラウルの狙いだった。僅かにでも動きを止められればよかったのだ。

そのアリシアを、無数の<見えない針>が襲う。

「シュッ!!」

それでも、今度は抗魔術を用いて<見えない針>をかき消す。

が、ラウルはそれさえ読んでいた。アリシアの背後に、いつの間にか巨大な影が。

視線を向けなくても、<音>だけでその正体を察する。

「ゴーレム!?」

その通りだった。ラウルが、先ほどまでの攻撃で破壊された路面や壁などを材料とし、ゴーレムを生成して見せたのである。

頭丁高三メートル強。推定重量二トンのゴーレムが、文字通り巨大な岩塊のような拳を、アリシア目掛けて振り下ろす。

これがラウルの狙いだった。

抗魔術は、あくまで魔術を無効化する術に過ぎない。たとえゴーレムを<解体>できたとしても、拳だけでも優に百キロは超えるであろうそれが落ちてくることには変わりない。

これだけの連続攻撃ともなれば、魔術師であろうと騎士であろうと、改めて対処するのは無理があるはずだった。

普通ならこれで、死ぬ。

<普通>なら。

けれど、アリシアは<普通>ではない。

彼女は敢えて自身目掛けて振り下ろされるゴーレムの拳に手を伸ばし、受け止めた。

そう、彼女は、重量だけでも数百キロはあるであろうゴーレムの拳を、受け止めて見せたのである。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

神の使いと呼ばれた男【僕は元地球人だった気がしないでもない】

ろっこつ
SF
 漂流した国連宇宙軍所属の宇宙船が、青く輝く水の星に不時着した。  船に乗っているのは一人の青年と、一体のアンドロイド。  だが、宇宙船で目覚めたその青年は過去の記憶を失っていた。  そして漂着した星はなんと、2500万年後の地球だという。 未来の地球は科学が発展? いやいや。  2500万年後の地球は、何故か旧時代に神話で聞いた生き物が跋扈する、剣と魔法のファンタジー。  なんでこんな地球になっちゃった?  剣も魔法も使えない、記憶の断片に苛まれた不安定な心の青年と、それに仕える万能アンドロイド。  そして不時着後、すぐに出会ってしまった可愛い猫耳娘。  亜人や人間が統治する世界の中、オーバーテクノロジーを満載した宇宙船と、それに関わる悩める若者たちが織り成す国家間を巻き込んだ紛争や、人を見ると襲ってくる魔物との争い。  平和に暮らしたいだけでチートも俺TUEEEも出来ない普通の男と、チート級に可愛い猫耳娘。  慣れない世界に降り立った男が、生き抜くための日常に振り回される、時々シリアス、でもまったりほのぼのした話を三人称風に書いてみました。 たまに性描写あります。 当作品は処女作に付き、ご都合主義が散見されます。  テンプレ展開は薄目です。  転生はありません。  三人称(風?)視点の為、文字数の割に話進みません。  不定期更新です、更新後30分位は直しが入ることが多いです。  それでは皆様宜しくお願いします。 *8/30現在。次の更新に向け、誤字、誤表記の修正作業と、少しの改稿をしております。

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~

華音 楓
SF
7歳で受けた職業診断によって憧れの狩猟者になれず、リヒテルは失望の淵に立たされていた。 しかし、その冒険心は消えず、立入禁止区域に足を踏み入れ、そこに巣食う機械魔に襲われ、命の危機に晒される。 すると一人の中年男性が颯爽と現れ、魔砲と呼ばれる銃火器を使い、全ての機械魔を駆逐していった。 その姿にあこがれたリヒテルは、男に弟子入りを志願するが、取り合ってもらえない。 しかし、それでも諦められず、それからの日々を修行に明け暮れたのだった。 それから8年後、リヒテルはついに憧れの狩猟者となり、後天的に得た「ブラックスミス」のスキルを駆使し、魔砲を武器にして機械魔と戦い続ける。 《この物語は、スチームパンクの世界観を背景に、リヒテルが機械魔を次々と倒しながら、成長してい物語です》 ※お願い 前作、【最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~】からの続編となります より内容を楽しみたい方は、前作を一度読んでいただければ幸いです

異星人が見た異世界転生記(我輩はゴアである・改)

雲黒斎草菜
SF
「ある日、我輩は雷に打たれて墜落。立ち入り禁止の星域に近づいた報いなのか、着いたところはなにやら怪しげな世界。そこはかとなく怪奇でありながら甘美であった……」で始まった内容が、二巻あたりから超危険なやり取りに変貌していきます。こうなったら掲載停止処置も覚悟の上です。そんなドタバタ日常SFコメディーでありながら、すごくITでもある物語です。   ちなみに、パソコンや電子回路を専攻している方がお読みになると「プフッ」と笑うかもしれません。

アルゴスの献身/友情の行方

せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公。ウィーンのハプスブルク宮廷に閉じ込められて生きた彼にも、友人達がいました。宰相メッテルニヒの監視下で、何をすることも許されず、何処へ行くことも叶わなかった、「鷲の子(レグロン)」。21歳で亡くなった彼が最期の日々を過ごしていた頃、友人たちは何をしていたかを史実に基づいて描きます。 友情と献身と、隠された恋心についての物語です。 「ライヒシュタット公とゾフィー大公妃」と同じ頃のお話、短編です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/268109487/427492085

【完結】悲劇のヒロインぶっているみたいですけれど、よく周りをご覧になって?

珊瑚
恋愛
学園の卒業パーティーで婚約者のオリバーに突然婚約破棄を告げられた公爵令嬢アリシア。男爵令嬢のメアリーをいじめたとかなんとか。でもね、よく周りをご覧下さいませ、誰も貴方の話をまともに受け取っていませんよ。 よくある婚約破棄ざまぁ系を書いてみました。初投稿ですので色々と多めに見ていただけると嬉しいです。 また、些細なことでも感想を下さるととても嬉しいです(*^^*)大切に読ませて頂きますm(_ _)m

ヒトの世界にて

ぽぽたむ
SF
「Astronaut Peace Hope Seek……それが貴方(お主)の名前なのよ?(なんじゃろ?)」 西暦2132年、人々は道徳のタガが外れた戦争をしていた。 その時代の技術を全て集めたロボットが作られたがそのロボットは戦争に出ること無く封印された。 そのロボットが目覚めると世界は中世時代の様なファンタジーの世界になっており…… SFとファンタジー、その他諸々をごった煮にした冒険物語になります。 ありきたりだけどあまりに混ぜすぎた世界観でのお話です。 どうぞお楽しみ下さい。

処理中です...