愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット勇者、アリシアの電脳異世界冒険記

並列処理

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正直、この時点での<魔術>合戦では、ラウルの方が有利だっただろう。はっきり言ってアリシアの方の魔術のレベルがまったく足りていなかった。本当ならここに至るまでの間に経験を積み、アイテムを手に入れてパワーアップするはずだったのだ。

そういう相手までスキップしてしまったのである。

けれど、アリシアは慌てない。

慌てる必要がなかった。魔術は、対象に意識を向けるだけで狙いが付けられるため、非常に正確である。しかし、その、

『狙いが正確』

というのがアリシアにとっては逆に有利だった。

地面から巨大な針が生えて彼女を串刺しにしようとしても、生え始めてから躱すことができてしまうのだ。

「む……?」

狙いが正確だからこそ巨大な針を紙一重で躱して、自分に向かって走り出したアリシアに、ラウルが険しい表情になる。

彼女が何かを放ったのが察せられたからだ。

ラウルには届かず、空中で何かに当たって地面に落ちたそれは、全体が金属でできていて、持ち手の部分も申し訳程度の細工が施されているだけの、<スローイングナイフ>と呼ばれるものだった。手で持って使うよりは、相手に向けて投擲して攻撃したり威嚇したり陽動に使ったりするものである。

それをラウルは自身の周りに見えない障壁を張り巡らせて防御する魔術で対処したのだが、それ自体が、アリシアによる<陽動>だった。

魔術は非常に強い意識の集中が必要なので、一般的には同時に複数の魔術を使うことはできないとされている。しかも、攻撃用の魔術と防御用の魔術では意識を向けるべき対象が、<相手>と<自分>という風にまったく逆なので、普通は上手く制御できないのだ。

しかし世の中にはその種の常識では収まらない者がいるのも事実。このラウルもそういう者の一人だった。彼は複数の対象に同時に確実に意識を向けることができるのだ。ゆえに、攻撃魔術と防御魔術を同時に操ることもできた。

だからこの時も、アリシアのスローイングナイフを防御魔術で対処しながら、<魔術によるスローイングナイフ>を彼女に向けて放ったりもしたのである。

とは言え、<タスクの並列処理>については、人間では限界があることも事実。人間として設計されているラウルも例外ではなかった。

けれど、アリシアシリーズに搭載されているAIは、最大、百二十八までのタスクを並列処理することができる。だからこそリンクによって複数の機体を同時に制御できるとも言える。

まあ実際には、処理の優先度をつければさらに多くのタスクにも対応できるが。

アリシア2234-HHCは一般仕様機なので複数の機体を同時に制御することはないものの、搭載されているAI自体は同等スペックのものであるために、アリシアの制御下であれば、同等のことができてしまうのである。

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