愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット主任、アリシアの細腕奮戦記

ジョン・牧紫栗、火星を蔑む

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ジョン・牧紫栗まきしぐりは、地球生まれである。年齢は六十二歳。と言っても、老化抑制技術の発達により人間の健康寿命が百二十歳を超えた現在では、肉体年齢的には二十一世紀頃の人間に当てはめるなら三十代になったばかりと言ったところだろうか。

そんな牧紫栗は地球に生まれたことを鼻にかけ、火星生まれの人間を元々見下している面があった。それは、両親が総合政府の官僚であったことも影響しているかもしれない。

さりとて、牧紫栗自身はそんな両親の六番目の子供であり、五番目の兄弟と三十以上も年齢の離れた、いわゆる<恥かきっ子>と呼ばれる子供だった。

が、老化抑制技術や不妊治療の発達により、八十歳を過ぎても肉体年齢的には二十一世紀頃の四十代と変わらないため、先に生まれた兄弟姉妹と非常に年齢が離れている例は別に珍しくなく、それに伴って<恥かきっ子>という言葉は蔑称として忌避されるようになっていた。

ただ、そうなると逆に侮蔑の意味で意図的に使う者が出てくるのも残念ながら事実。

故に、幼い頃の牧紫栗は<恥かきっ子>とあだ名され、辛い青春時代を過ごしたという。

しかも両親も、事故のようにして生まれてきた末っ子に対しては冷淡で、養育は末っ子と同じく必要としていなかった五人目の子である三女に任せ切りにして自分達はほとんど省みることもなかったそうだ。

そんな境遇が彼の人格を歪めてしまったのか、蔑まれたことを他人に転嫁することで贖おうとしたのか、牧紫栗は火星出身者を<火星人>と称して蔑んだ。

そしてJAPAN-2ジャパンセカンド社の地球支店に就職。そこでの業績を認められて<本社への栄転>と相成ったのだが、火星出身者を<火星人>と蔑んでいた彼にとっては逆に、

『何で俺が火星なんかに…!?』

と憤る話だった。

それでも表面的には冷静を装い火星へと来たものの、本質的には『火星そのもの』を、

<地球の汚物の捨て場>

と蔑んでいた彼はその不満を、目をつけた同僚に転嫁することで自身の精神の安定を図ろうとした。

当初は彼自身の業績と、家電部門を牛耳る副社長の新良賀あらがが地球至上主義者だったこともあり、被害を受けた同僚が会社側に相談を持ちかけても口頭での訓告に留まり、具体的な対処は行われなかったそうだ。

しかしそれが牧紫栗を増長させたのか、彼はネット上でも地球至上主義の持論を展開、火星そのものを公然と蔑みだしたのだった。

さすがにこれは火星出身者の強い反発を招き炎上、その極端な地球至上主義、火星蔑視の論陣から身元が特定されるに至り、こうして彼が所属していた家電部門の営業に直接抗議が来たことで、彼の業績及び期待される才覚とを天秤にかけた結果、配置転換が行われたということである。

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