愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボット主任、アリシアの細腕奮戦記

千堂アリシア、親睦会に誘われる

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とは言え、負けたことは悔しいものの、楓舞フーマ1141-MPSは決して人間を傷付けようとしているわけではないので、『勝たなければ!』という焦燥感のようなものはなかった。

そもそもアリシアが一番望むことは人間を守ることであって、敵を撃破することじゃない。最重要なのは『負けないこと』なのだ。

守るべき対象を守りきれれば他に損害があっても納得できる。自身も含めて。

その後、アリシアが目を覚ました時には終業直前だった。

「何か申し訳ないです……」

目を覚まして部屋から出たところにたまたま通りがかった敷島紘一郎しきしまこういちろうに、頭を掻きながら声を掛ける。

敷島も彼女が寝ているところは見ていたので、

「いいよいいよ、気にしないで。事情は分かってるから」

と気遣ってくれる。

それがまたアリシアには嬉しかったのと同時に申し訳なかった。

だからこそ、今は楓舞フーマ1141-MPSの開発に協力しなければとも思う。

終業時間を迎えて帰り支度を始める。

今日は千堂が役員としての仕事が残っていて、一緒に帰ろうと思えばあと数時間は待つ必要があった。

そんな彼女に、

「もし良かったら私達の夕食に付き合ってくれない?」

部下数人を連れたエリナ・バーンズが現れ、誘ってきた。

「え? 私でいいんですか?」

思いがけない提案に、アリシアは戸惑う。無理もない。彼女はロボットなのだから、そもそも飲食はできない。

「あ~、いいのいいの、ただの親睦会だから。飲み食いはあくまで建前。職場では憚られるような砕けた話がしたいだけよ」

職場での毅然とした姿とは違う彼女の様子に、アリシアはまた戸惑う。人間には様々な一面があることは知っていても、ただのメイトギアだった頃にはそれを何とも思わなかったものの、今では何だか不思議に感じてしまう。

でも、こうして誘われたことは悪い気はしなかった。

なんだか今まで以上に人間の仲間として認めてもらえた気がして。

そこでアリシアは、

「ちょっとお待ちください」

とエリナに断りを入れた上で、千堂に、

『千堂様。バーンズ様から親睦会のお誘いをいただきました。私も参加してもよろしいでしょうか?』

自らの通信機能を用いてメッセージを送る。

するとすぐさま、

『アリシアが良ければ私は構わないよ』

と返信があった。アリシアからのメッセージについては優先的に応答するようにしていたからだ。

それを受けて、エリナの方に向き直り、

「分かりました。私でよろしければ…!」

と応える。

「良かった! じゃあ、行きましょう♡」

満面の笑顔のエリナに迎えられながら、アリシアはオフィスを後にしたのだった。

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