愛しのアリシア

京衛武百十

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ロボットメイド、アリシアの優雅な日常

肥土亮司、戦闘指揮を執る

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C-F1から投下されたCSK-305は、デッキ上のプールを目標としつつ、その脇に空きスペースがあることを確認、スラスターの噴射で軌道を修正、500キロを超える機体ながらまるで重量を感じさせない軟着陸を見せた。それと同時に周囲を索敵。脅威が存在しないことを確認し、同時にロボットに対して協力を要請してきた。

CSK-305が降下してきたことを確認した千堂アリシアがそれに応じる。彼女の口を通じてCSK-305が、船長に対して、デッキ上に肥土達が降下する為のスペースを確保するように依頼してきた。

「乗客を誘導してスペースを空けるんだ!」

船長が乗員に指示すると、CSK-305の周囲を大きく空けるように乗客を誘導した。もちろんメイトギア達もそれに協力する。

十分なスペースが確保されると、CSK-305はそれを暗号通信でC-F1へと伝えた。すると大きく旋回し再び船首方向から船へと接近してきた。

「降下!」

肥土の指示により、隊員達が降下を開始する。もちろん肥土自身も降下した。だが、パラシュートを開いてはいるがその降下速度は普通のスカイダイビングのそれとは比べものにならないくらいの速さだった。ビルの三階ほどの高さから飛び降りた時の最終的な速度とほぼ同じだった。降りるというより落ちると言った方が適切かもしれない。それは当然、降下中を狙われないようにする為のものだ。

だが、肥土達がデッキ上に着地する寸前、また船がズシンと揺れた。しかも今度のは先の二回よりずっと大きな衝撃だった。船が傾き、乗客達がよろけるが、それでも肥土達は体勢を崩すことなく着地した。錬度の高さを感じさせる姿だった。すぐさまパラシュートを回収、即応できる体制を整える。C-F1は一旦、船から離れた。

「我々は、GLAN-AFRICAグランアフリカからの要請を受けた戦術自衛軍のものです! 皆さんを助けるために来ました! どうぞ落ち着いて指示に従って行動してください!」

隊員達が乗客に向かってそう声を掛ける中、肥土は月城を伴って船長室へと向かった。

「戦術自衛軍の肥土亮司ひどりょうじ二等陸尉です。GLAN-AFRICAからの要請により参りました」

「同じく月城香澄つきしろかすみ二等陸曹です」

「船長のダン=バーニィです。救援に感謝します」

手短に挨拶を交わすと、船長が千堂を二人に紹介した。

「こちらはミスター・センドウ。JAPAN-2ジャパンセカンド社の役員をなさってる方で、今回の事態への対処に協力してくださってる。被害の拡大を防げているのもこの方のおかげです」

船長による紹介はもちろん、千堂と肥土らが既知の間柄であることを知らなかったからだが、千堂らも敢えて自分達が顔見知りであることは特に告げなかった。別に必要な情報ではなかったし、肥土らがここにいること自体が機密に当たる場合もあると考え、千堂自身が黙っていたからだ。

「状況の打破の為に協力させていただきます」

敬礼しながらの千堂の言葉に、肥土も「ご協力、感謝します」と返礼した。

「アリシア、今からこの方達の指揮下に入り、全力を持って対処しろ」

千堂にそう言われたアリシアも、肥土達に敬礼した。その彼女に対して肥土が声を掛ける。

「それでは早速、改めて状況の詳細を」

この場にいる誰よりも彼女が一番詳しいと見抜いてのことだった。そしてそのままブリーフィングが始まる。情報解析の為、アリシアが持っているそれを、CSK-305も共有した。そこからさらに暗号通信によって部隊員全員に情報の共有が行われた。テロリスト達を釘付けにしているメイトギアのカメラの映像が、ライブで全員に送信される。

どの現場も、テロリスト達は客室のドアや破壊されたメイトギアを盾にして潜み、しかしメイトギアの方も非常停止信号を持つテロリスト達には近付くことが出来ずただ睨み合いが続いている状況だった。

だが、ただそのまま睨み合いを続けることは出来ない。三度の爆発により船体が破損、量そのものは大したことがなく今のままでも沈没までは至らないだろうが浸水が始まっており、さらに爆破が行われればそれもどうなるかは分からないという状況でもあった。

テロリストの装備は、先程のC-F1に対するミサイル攻撃でも分かった通り、これまでは使用されていなかっただけでかなり強力なものも含まれている可能性が高い。しかも三度の爆発が示すように、既にいくつもの爆発物が仕掛けられている可能性もある。それを、まるでゲームの難易度を操作するかのように小出しにしているのだ。

それらを把握した肥土の表情が非常に厳しいものになる。

「何か、分かったのですか…?」

千堂が問い掛ける。

その問い掛けに対し、肥土は、月城と顔を見合わせ頷いた後、重苦しい感じで口を開いた。

「正直申し上げて、非常に厳しい状況だと思います…」

そう言った彼の表情に、千堂もただならぬものを感じた。肥土のそんな表情を見るのは初めてだったからだ。

しかしそういうことを知らない船員の一人が、腑に落ちないという感じで訊いてきた。

「ですが、テロリスト達の攻撃は現在、封じられた状態にあります。このまま応援を待って準備を整えられれば簡単に制圧出来るのでは?」

だが、肥土は苦し気に首を横に振った。

「いえ……現状が膠着状態なのは、奴らが遊んでいるからでしょう。この手口は間違いありません。クグリと呼ばれる、今、火星で最も危険とみなされているテロリストのものです。奴がこの船に乗っているんです。奴には思想はありません。奴の目的はただ破壊と殺戮だけです。しかもそれを自らの娯楽として行う。奴はただ遊んでいるんです」

肥土の言葉は、アリシアの推測を専門家として裏打ちするものだった。その場にいた全員が、張り詰めた空気に囚われていた。

肥土も、自分達がまんまとクグリのゲームに巻き込まれたのだということを思い知っていた。以前の作戦で、別荘地の屋敷が爆破され、突入した特殊部隊の隊員もその場にいたテロリストも全員が死亡した事件が頭をよぎる。奴はもう既に、この船そのものを爆破出来るだけの爆発物を仕掛けている可能性がある。わざと膠着状態を作り出して、新たに部隊が投入されることを待っているのかもしれない。そこに自分達は降下してしまった。もういつ船そのものが爆破されたとしてもおかしくない。クグリの策に嵌りおびき出されてしまったとも言えるだろう。

しかしこうなった以上は、爆破される前にクグリの手を封じるしか他に手はない。肥土はアリシアに向き直り、指示を出した。

「我々が奴らと交戦している間に、ロボット達を使って船内に仕掛けられた爆弾を見つけ出してほしい。もちろん我々もクグリを倒すことに全力を尽くす。だが切り札を奴に握られたままでは勝ち目はない。まずそれを封じたい」

アリシアは頷き、すぐさまバリケードを構築していたメイトギアの一部を爆発物の捜索に向かわせた。それと同時に、船長に向かって訊く。

「この船の詳細な設計図はありますか?」

すると、技師として船に乗っていた人間が、「あります」と応えて端末を出してきた。それともリンクして、詳細な設計図を入手する。それに従い、アリシアは爆発物を仕掛けるのに有効な場所を推測した。その中で特に候補として上位に来たところに、メイトギアを向かわせる。そのうちの三つは既に爆破され、浸水が始まり水没していた。

それと並行して、肥土の部隊もいくつかの小集団に分かれてテロリストの制圧に向かった。メイトギアによるバリケードの一部を解き、それぞれの小集団を前に出す。アリシアはそちらにも協力し、要人警護仕様のそれを中心にメイトギア達を臨時の部隊員として組み入れた。こうして、肥土の部隊と、アリシアが指揮するメイトギアによる即席の混成部隊が誕生したのであった。

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