愛しのアリシア

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
83 / 804
ロボットメイド、アリシアの優雅な日常

アリシア、奮闘する

しおりを挟む
爆発と同時に、アリシアの戦闘モードが起動した。それに続いて、警備にあたっていたレイバーギア達の緊急モードも起動。だが、緊急モードの起動に成功したのは、その場にいたものの半分もいなかった。それと言うのも、爆発が起こる瞬間、警備のレイバーギア達に嘘の指令が発信されたのだ。『これは訓練である。待機状態を維持せよ』と。

ロボットは、指示されたことには従う。それを逆手に取られてしまったのである。しかも、客が連れていたロボット達も、警備のレイバーギアを通じてその指令を受信してしまい、多くが待機状態になってしまったのだった。もちろん、主人が命令すれば優先順位が高いそちらの命令には従う。しかし決定的に反応が遅れてしまうのだ。何しろここにいるロボットの主達は、殆どがただの民間人であるがゆえに、軍事的な知識にはどうしても乏しい。

多くの人間を守る為に不可欠なロボット同士の連携を、見事なまでに乱されてしまっていた。

現状、まともに対応出来る状態なのは、アリシアを含め数体のロボットだけであった。しかも戦闘能力を持つロボットに至ってはアリシアを含めても三体だけだった。標準仕様のメイトギアに出来るのは、身を挺して主人を守ることだけである。

アリシアは、その現状を踏まえ、少なくない人間の被害が出ることを覚悟していた。そして自らが守るべき対象は千堂ただ一人。他の人間は守り切れなくても仕方ないと切り捨てた。それが戦闘モードの思考であった。だがそれと同時に、自らの最大戦力で迅速に敵勢力を制圧することで被害を最小限に食い止めるという思考も行われていた。

そこでアリシアは、手近にあったナイフやフォークを手に取り、現時点で確認できる敵性対象目掛けて弾丸のように放つ。辛うじて緊急モードに入れた警備用レイバーギア二体と連携し、いや、彼女が司令塔となり、それぞれのセンサーで得た情報を共有しそれを並列的に処理し適切な指示を与えつつ自らも攻撃を行ったのだった。

それにより、爆発後僅か一秒足らずで十人のテロリストの無力化に成功し、その隙を利用しテーブルでバリケードを築き、敵からの攻撃の死角に千堂らを避難させ、更に手近にあったものを片っ端から使ってテロリストの攻撃を阻害した。

そう、『阻害した』のである。さすがにナイフやフォークなどでは威力が小さすぎる上に精度が低く、体勢を立て直したテロリスト相手では効果的なダメージを与えられなかったのだった。相手は残り五人と思われたが、最初に十人を倒せた後はほぼ膠着状態に。

しかもテロリスト達はロボットを相手にするのではなく、明らかに人間を直接狙っていた。恐らくそれ故なのだろう。対ロボット用の強力な火器は装備されていなかった。あくまで取り回しのしやすい小火器のみの攻撃だ。手榴弾を持った者もいたが、幸い既に無力化されていた。それでも訓練を積んだ人間達であり、その狙いをつけさせないようにするだけで手一杯である。

アリシアは、テーブルのバリケードの中でタラントゥリバヤ達を守ろうとする千堂の姿をちらりと見た。彼はタラントゥリバヤ達を守る為なら自らを盾にしようとするに違いない。そういう性分なのは分かっていた。時間がかかればかかる程、危険も増す。だからここは、敢えて自分が直接迎撃するしかないと判断した。

自分が狙いをつけた者以外への牽制を警備のロボットに任せ、アリシアは銃撃の中に身を躍らせた。連中が使っている程度の小火器では彼女には傷一つつけられない。自らの体で銃弾を受け止めつつ一番近いところにいた一人に対し飛び掛かり、即座に両腕を掴んで骨を粉砕、続けて両足を踏み付けてこちらの骨も粉砕した。更にフルフェイスのヘルメットの上から顔面を殴打、ヘルメットごと顎の骨も砕いた。

命までは奪わない。だが、確実に戦闘力は奪う。そうして一人目を無力化し、次へと奔った。だがアリシアはここで違和感に気付いた。自分がテロリストの一人を叩きのめしてる間、他の連中はそれを援護しようとするでもなく人間への攻撃を続けている。仲間に何が起ころうと攻撃目標は変えないというのが徹底されているのだ。二人目を同じように無力化した時も同じだった。バイタルサインを見る限り薬物使用の兆候は見られない。むしろリラックスしているかのような状態と言えた。となると、強力な暗示、催眠術か何かを掛けられている状態なのかもしれない。

最初の爆発からここまでで約一分。アリシアが三人目に飛び掛かった瞬間、また別の気配を彼女は捉えた。最初に倒した十人の内の一人が武器を構えたのである。三人目を無力化しつつ彼女が確認したそれは、グレネードランチャーらしきものだった。なのにそれの銃口が向けられていたのは、何もない中空だった。遠距離に届かせる為の行為かとも推測されたが、その角度から推定される落下地点は今はほぼ無人の砂浜である。そのことからアリシアは別の結論を導き出す。

彼女の視線の先には、ほぼ全面がガラスで作られたホテルの姿があった。それに気付いたと同時にアリシアは地面を蹴り、空中に舞い上がった。そんなアリシアに遅れることコンマ一秒ほど、グレネードランチャーらしきものの引き金が引かれ、手榴弾のようなものが放たれる。

しかし軌道を予測していたアリシアがそれを空中で掴み、抱きかかえるようにして体を丸めるのと同時に、それは炸裂したのだった。

その場にいた人間達はまるで何か大きな固いクッションで全身を叩かれたような衝撃を受け、ある者は鼓膜が破れ、ある者は気を失った。そしてホテルのガラスにはひびが入った。

「衝撃波爆弾!?」

千堂の頭に蘇るものがあった。以前、軍の演習で見た、衝撃波によってその場にいる人間の兵士を無力化する、非殺傷型の爆弾が使用された時に感じた衝撃に似ていたと思ったのである。その時はもちろん安全な位置で見ていたのだが、一キロ以上離れた場所でのそれでも固いクッションで体を叩かれたような感じを受けたのを覚えていた。それによってテロリスト達の狙いに千堂も気が付いた。連中は衝撃波爆弾が生む衝撃波によってホテルのガラスを破壊、破片の雨を降らせることで被害を大きくしようとしたのだろう。

では、それを自分の体で受け止めようとしたアリシアは?

「アリシア!!」

衝撃波の影響で耳が聞こえにくくなっていたが、千堂は思わずそう声を上げて彼女の姿を探した。空中での爆発と同時に彼女の姿を見失ってしまったのだ。

千堂がアリシアの姿を探してるその一方で、二発目の爆発については訓練ではないと判断した警備用のレイバーギアが緊急モードを起動、残ったテロリストを制圧し、辛うじて状況は終了したのだった。

「アリシア!!」

タラントゥリバヤ達も廣芝達も無事なことを確認した千堂がアリシアの姿を求め、再度声を上げる。するとその時、ホテルの一階の割れたガラスの枠に、見覚えのあるスカートをまとった脚が見えた。そこに駆け寄る千堂の視線の先に、窓枠に引っかかるように倒れているアリシアの姿が。

「アリシア、無事か!? アリシア!!」

何度も声を掛ける千堂に向かって、彼女が僅かに頭を動かした。

「申し訳ございません。爆発の衝撃で各関節部に歪みが生じ、動けません」

爆発の威力そのものは、彼女の柔らかい装甲を破る程のものではなかった。ただ、手足の関節部に瞬間的に不正かつ過大な力が加わったことで部品が変形してしまったのだと言う。

「そうか…大丈夫、すぐに直してやる。今夜中にも直してやるよ」

そう言った千堂とアリシアの下に、廣芝達も駆けつけてきた。そして廣芝達の力も借りてアリシアを手配したバンに乗せ、千堂はどこかに電話を。そんな千堂に声を掛ける者がいた。

「千堂! アリシアは無事ですか!?」

タラントゥリバヤだった。心配そうに話しかけてくる彼女に、しかし千堂は言いようのない違和感を覚えていたのだった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

アルゴスの献身/友情の行方

せりもも
歴史・時代
ナポレオンの息子、ライヒシュタット公。ウィーンのハプスブルク宮廷に閉じ込められて生きた彼にも、友人達がいました。宰相メッテルニヒの監視下で、何をすることも許されず、何処へ行くことも叶わなかった、「鷲の子(レグロン)」。21歳で亡くなった彼が最期の日々を過ごしていた頃、友人たちは何をしていたかを史実に基づいて描きます。 友情と献身と、隠された恋心についての物語です。 「ライヒシュタット公とゾフィー大公妃」と同じ頃のお話、短編です。 https://www.alphapolis.co.jp/novel/268109487/427492085

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

モニターに応募したら、系外惑星に来てしまった。~どうせ地球には帰れないし、ロボ娘と猫耳魔法少女を連れて、惑星侵略を企む帝国軍と戦います。

津嶋朋靖(つしまともやす)
SF
近未来、物体の原子レベルまでの三次元構造を読みとるスキャナーが開発された。 とある企業で、そのスキャナーを使って人間の三次元データを集めるプロジェクトがスタートする。 主人公、北村海斗は、高額の報酬につられてデータを取るモニターに応募した。 スキャナーの中に入れられた海斗は、いつの間にか眠ってしまう。 そして、目が覚めた時、彼は見知らぬ世界にいたのだ。 いったい、寝ている間に何が起きたのか? 彼の前に現れたメイド姿のアンドロイドから、驚愕の事実を聞かされる。 ここは、二百年後の太陽系外の地球類似惑星。 そして、海斗は海斗であって海斗ではない。 二百年前にスキャナーで読み取られたデータを元に、三次元プリンターで作られたコピー人間だったのだ。 この惑星で生きていかざるを得なくなった海斗は、次第にこの惑星での争いに巻き込まれていく。 (この作品は小説家になろうとマグネットにも投稿してます)

双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良
青春
 二卵性双生児の兄妹、新屋敷竜馬(しんやしきりょうま)と和葉(かずは)は、元女子高の如月(きさらぎ)学園高校へ通うことになった。  今年から共学となったのである。  そこは竜馬が想像していた以上に男子が少なかった。  妹の和葉は学年一位の成績のGカップ美少女だが、思春期のせいか、女性のおっぱいの大きさが気になって仕方がなく、兄竜馬の『おちんちん』も気になって仕方がない。  スポーツ科には新屋敷兄弟と幼稚園からの幼馴染で、長身スポーツ万能Fカップのボーイッシュ少女の三上小夏(みかみこなつ)。  同級生には学年二位でHカップを隠したグラビアアイドル級美人の相生優子(あいおいゆうこ)。  中学からの知り合いの小柄なIカップロリ巨乳の瀬川薫(せがわかおる)。  そして小柄な美少年男子の園田春樹(そのだはるき)。  竜馬の学園生活は、彼らによって刺激的な毎日が待っていた。  新屋敷兄妹中心に繰り広げられる学園コメディーです。  それと『お気に入り』を押して頂けたら、とても励みになります。  よろしくお願い致します。

後天スキル【ブラックスミス】で最強無双⁈~魔砲使いは今日も機械魔を屠り続ける~

華音 楓
SF
7歳で受けた職業診断によって憧れの狩猟者になれず、リヒテルは失望の淵に立たされていた。 しかし、その冒険心は消えず、立入禁止区域に足を踏み入れ、そこに巣食う機械魔に襲われ、命の危機に晒される。 すると一人の中年男性が颯爽と現れ、魔砲と呼ばれる銃火器を使い、全ての機械魔を駆逐していった。 その姿にあこがれたリヒテルは、男に弟子入りを志願するが、取り合ってもらえない。 しかし、それでも諦められず、それからの日々を修行に明け暮れたのだった。 それから8年後、リヒテルはついに憧れの狩猟者となり、後天的に得た「ブラックスミス」のスキルを駆使し、魔砲を武器にして機械魔と戦い続ける。 《この物語は、スチームパンクの世界観を背景に、リヒテルが機械魔を次々と倒しながら、成長してい物語です》 ※お願い 前作、【最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~】からの続編となります より内容を楽しみたい方は、前作を一度読んでいただければ幸いです

18禁NTR鬱ゲーの裏ボス最強悪役貴族に転生したのでスローライフを楽しんでいたら、ヒロイン達が奴隷としてやって来たので幸せにすることにした

田中又雄
ファンタジー
『異世界少女を歪ませたい』はエロゲー+MMORPGの要素も入った神ゲーであった。 しかし、NTR鬱ゲーであるためENDはいつも目を覆いたくなるものばかりであった。 そんなある日、裏ボスの悪役貴族として転生したわけだが...俺は悪役貴族として動く気はない。 そう思っていたのに、そこに奴隷として現れたのは今作のヒロイン達。 なので、酷い目にあってきた彼女達を精一杯愛し、幸せなトゥルーエンドに導くことに決めた。 あらすじを読んでいただきありがとうございます。 併せて、本作品についてはYouTubeで動画を投稿しております。 より、作品に没入できるようつくっているものですので、よければ見ていただければ幸いです!

♡してLv.Up【MR無責任種付おじさん】の加護を授かった僕は実家を追放されて無双する!戻ってこいと言われてももう遅い!

黒須
ファンタジー
 これは真面目な物語です。  この世界の人間は十二歳になると誰もが天より加護を授かる。加護には様々なクラスやレアリティがあり、どの加護が発現するかは〈加護の儀〉という儀式を受けてみなければわからない。  リンダナ侯爵家嫡男の主人公も十二歳になり〈加護の儀〉を受ける。  そこで授かったのは【MR無責任種付おじさん】という加護だった。  加護のせいで実家を追放された主人公は、デーモンの加護を持つ少女と二人で冒険者になり、金を貯めて風俗店に通う日々をおくる。  そんなある日、勇者が魔王討伐に失敗する。  追い込まれた魔王は全世界に向けて最悪の大呪魔法(だいじゅまほう)ED(イーディー)を放った。  そして人類は子孫を残せなくなる。  あの男以外は!  これは【MR無責任種付おじさん】という加護を授かった男が世界を救う物語である。

処理中です...