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大希

家族と言えど

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これまで以上に彼に背中を洗われて、鼻血までは噴かなかったものの、私はのぼせた状態になっていました。

頭もぼうっとなって上手く働きません。

その状態でヒロ坊くんの家に帰り、会合の時間を迎えてしまいました。

「こんばんは」

現れた山下さんが挨拶をしながらも私を気にしているのが分かります。何しろ顔が真っ赤だったでしょうから。

「いやいや、今日はヒロ坊に背中を流してもらっただけだよな、ピカ!」

カナがニヤニヤと笑いながら言います。ですが私は応えることもできませんでした。

それでも、山下さんはあたたかい視線を向けてくださるだけで、私を馬鹿にしたりはしません。その人間性が山下家の幸せを作り上げているのだと改めて感じます。



翌日。二月四日、日曜日。

今日ももちろん、山下さんのお宅に伺います。

冷えた空気の中を歩いて山下さんのお宅に到着すると、

「沙奈~! あっためて~!」

千早が早速、沙奈子さんに抱きつきました。そんな千早に、ヒロ坊くんが、

「だからサッサと入れ~、千早~」

と<ツッコミ>を入れます。

そうしていつものように三人で料理を始めようとした時、

「沙奈、フライパン!」

千早が沙奈子さんに指示を出すと、沙奈子さんが、

「固いパン?」

と応えました。

それにすかさず、

「それ、フランスパン!」

というヒロ坊くんの<ツッコミ>が。

しかし、山下さんも玲那さんも、呆気に取られたような表情をなさっていたのです。そして、

「今、沙奈子ちゃん、ボケた…?」

玲那さんの言葉。

そう。山下さんも玲那さんも、沙奈子さんがそうやって『ボケた』ことにすぐには気付かなかったのです。

そこで私は、

「沙奈子さんがボケるのは、運動会の後くらいからだったでしょうか、私も時々ですが見ました。勉強を見させていただいている時などに。

てっきりご家庭でもなさってると思っていたのですが、千早やヒロ坊くんと一緒の時だけだったんですね」

と解説させていただきます。すると玲那さんが、

「マジすか…!?」

やっとそれだけを搾り出したかのように呟きます。

千早やヒロ坊くんと一緒の時間については、山下さんや玲那さん、絵里奈さんよりも長く見させていただいてた私としてはごく自然な変化だと感じていたものが、実は山下家の方々には意外なものであったことを知ったのです。

沙奈子さんは普段から山下さんには何でも打ち明ける方だそうですが、それでも、友達の前で見せる様子と家族の前で見せる様子とには違いがあったのですね。

それは決して意図して隠していたのではなく、たまたまだったのでしょうが、この一件は、

『家族と言えどすべてを知っているわけではない』

という事実を改めて私に教えてくれたのでした。

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