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大希

カナのことを

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けれど、そのカナの振る舞いは、正直申し上げてどこか上滑りしているという印象があったのも事実でした。それをカナ自身も分かっていたのでしょう。

「…ごめん、フミ……」

俯いたままのフミを見て、カナが漏らします。

瞬間、フミの目から涙が溢れました。拳を握り締めて、俯いたまま、搾り出すように、

「ごめんじゃないでしょ…! 自分が今、どういう立場なのか考えてよ…! 私なんかのせいでカナが事件起こすとか、耐えられない……!!」

と声を上げたのです。

フミの本音でした。たとえ自分を守ろうとしてくれたのだとしても、それでカナが事件を起こして罪を問われたりしたら……

それが今のフミにとってどれだけ辛いことか……

カナも、分かってはいるのでしょう。

「ごめん…ホントごめん……フミが痴漢されそうになってるの見たら、頭が真っ白になっちゃって……でもごめん……」

今のカナがもし事件を起こせば、

<あの婦女暴行事件の犯人の妹>

として、世間はそれこそ<絶好の標的>を得たとばかりに総攻撃するでしょう。苛烈な虐待被害を受けてきた玲那さんでさえ、

『母親の葬儀の場で父親を包丁で刺す鬼畜のような女』

などと言われて総攻撃を受けたのですから、どのような<祭り>になるか、想像に難くありません。痴漢されそうになっているフミを助けようとしたという事実など、<祭り>を求めてらっしゃる方々には必要ないのでしょう。

玲那さんが尋ねます。

「山仁さん。カナのこと、本当に大丈夫なんですか? 事件にならないんですか?」

お義父さんは少し険しい表情になり、

「警察としては、田上さんを守ろうとした咄嗟の行動だとして、カナちゃんの件については事件にしないようにと考えてくれてるのは確かだと思う。ただ、怪我をした痴漢の容疑者が告訴に踏み切る可能性は、否定はできない……」

と。

ですがそれは私にとっては想定の内。

「その可能性も含めて、弁護士には対応してもらいます。容疑者にカナを告訴する権利があるのなら、こちらも持ちうる権利を最大限に行使してカナを守ります。決して思い通りになどさせません。そのために優秀な弁護士の方とパイプを作っているのです。告訴合戦になったとしても、受けて立ちます」

そう言った私に、カナが苦笑いしながら。

「いやほんと、こういう時は心底頼もしいな、あんたは。迷惑掛けるかもしれないけど、その時は頼りにしてるよ、ピカ」

それを受けてフミは。

「お願い、カナのことを守ってあげて…! お願い、ピカぁ……」

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