318 / 470
大希
声
しおりを挟む
『なんかもう、イヤになっちゃった……』
力なくそう言うフミにイチコとカナと私が声を掛けると、それに続くようにして、<声>が私達の耳に届いてきました。それは、電子的に合成されたものでした。ハッと視線を向けるとそこには、ビデオ通話の画面の向こうからフミを真っ直ぐに見詰める玲那さんの姿が。
そう、それは玲那さんの<声>だったのです。
「フミ。実の父親が許せなくて殺そうとした人間として、私も言わせてもらうよ。
私も自殺することは何度も考えた。考えすぎて訳が分からなくなるくらい考えた。
でも、私が死んだら私の実の両親は逆に喜んだと思う。邪魔なのがいなくなって清々したって考えたと思う。
だから私は、自殺しなかった自分を褒めたい。あんな人達を喜ばせなかった自分を褒めたいんだ。
世の中にはさ、『苦しんでる人を見るのが辛い。楽にならせてあげたらいい』とか言って自殺を勧めるのがいるけど、私はそんなの大嘘だと思ってる。そういう奴ってさ、人が死ぬところを見たいだけなんだよ。
だってそうだろ? 苦しんでる人を救いたいなら、その人を苦しめてる奴をどうにかするのが筋ってもんじゃないか。
苦しめてる奴をどうにかできないんなら、せめて苦しんでる人を守ってやれよ。絵里奈もお父さんもそうしてくれてるよ。
人を苦しめてる奴を放っておいて、苦しんでる人に『死ねばいい』なんて、まともな人間の言うことじゃないよ」
この時の<声>は、私が知人のシステムエンジニアに依頼して作っていただいた<文章読み上げアプリ>のものでした。昨日の会合の際にお渡ししておいたのです。声を失った玲那さんの助けになればと考えて。
ですがそれは、どこからどう聞いても機械音声でしかありませんでした。<玲那さんの肉声>とは程遠いそれに、私は後になって情けなささえ感じてしまいました。
さすがにこの時点ではそれどころではなかったのですが……
けれど、それでも玲那さんの言葉は、フミに届いたようです。
「玲那さん……」
そう呟いた彼女は、縋るようにして玲那さんを見詰めていたのですから。
それから、頭を下げて、
「ごめんなさい……」
と……
そのフミの謝罪が、何に対してのものであったのか、フミ自身にもよく分からなかったそうです。ただただ自然と口にしてしまったものだったそうです。
自身の声を失ってもなお気高さは失わない玲那さんの姿に、何かを感じ取ったのかもしれませんね。
ですが私としては、フミが落ち着きを取り戻せたことにはホッとしつつも、玲那さんの<声>を取り戻すための一層の努力は必要だと改めて感じたのでした。
力なくそう言うフミにイチコとカナと私が声を掛けると、それに続くようにして、<声>が私達の耳に届いてきました。それは、電子的に合成されたものでした。ハッと視線を向けるとそこには、ビデオ通話の画面の向こうからフミを真っ直ぐに見詰める玲那さんの姿が。
そう、それは玲那さんの<声>だったのです。
「フミ。実の父親が許せなくて殺そうとした人間として、私も言わせてもらうよ。
私も自殺することは何度も考えた。考えすぎて訳が分からなくなるくらい考えた。
でも、私が死んだら私の実の両親は逆に喜んだと思う。邪魔なのがいなくなって清々したって考えたと思う。
だから私は、自殺しなかった自分を褒めたい。あんな人達を喜ばせなかった自分を褒めたいんだ。
世の中にはさ、『苦しんでる人を見るのが辛い。楽にならせてあげたらいい』とか言って自殺を勧めるのがいるけど、私はそんなの大嘘だと思ってる。そういう奴ってさ、人が死ぬところを見たいだけなんだよ。
だってそうだろ? 苦しんでる人を救いたいなら、その人を苦しめてる奴をどうにかするのが筋ってもんじゃないか。
苦しめてる奴をどうにかできないんなら、せめて苦しんでる人を守ってやれよ。絵里奈もお父さんもそうしてくれてるよ。
人を苦しめてる奴を放っておいて、苦しんでる人に『死ねばいい』なんて、まともな人間の言うことじゃないよ」
この時の<声>は、私が知人のシステムエンジニアに依頼して作っていただいた<文章読み上げアプリ>のものでした。昨日の会合の際にお渡ししておいたのです。声を失った玲那さんの助けになればと考えて。
ですがそれは、どこからどう聞いても機械音声でしかありませんでした。<玲那さんの肉声>とは程遠いそれに、私は後になって情けなささえ感じてしまいました。
さすがにこの時点ではそれどころではなかったのですが……
けれど、それでも玲那さんの言葉は、フミに届いたようです。
「玲那さん……」
そう呟いた彼女は、縋るようにして玲那さんを見詰めていたのですから。
それから、頭を下げて、
「ごめんなさい……」
と……
そのフミの謝罪が、何に対してのものであったのか、フミ自身にもよく分からなかったそうです。ただただ自然と口にしてしまったものだったそうです。
自身の声を失ってもなお気高さは失わない玲那さんの姿に、何かを感じ取ったのかもしれませんね。
ですが私としては、フミが落ち着きを取り戻せたことにはホッとしつつも、玲那さんの<声>を取り戻すための一層の努力は必要だと改めて感じたのでした。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる