315 / 470
大希
レンタル家族
しおりを挟む
館雀さんの件をきっかけにして、フミが抱える問題が改めて浮き彫りになった形ですね。
その一方、カナは、
『もう、気にしても仕方ないかなって自分でも思うんだ。私の力じゃ家族を元に戻すことはできない。だったらそれをいつまでも悔やんでたって始まらないよ。私は私で幸せになる。家族には頼らない。家族には期待しない。だって、家族って言っても私とは別人なんだからさ』
と言って、自身の置かれている状況や実の家族についてある種の諦観を得ているようです。それはもはや達観と言ってもいいのかもしれません。
実際、波多野家が抱える問題は、高校生であるカナにはどうすることもできないものですし。そういう、自分の力ではどうすることもできないものに精神的に囚われ続けても解決しないというのも事実でしょうね。
翌日、フミはひどく疲れた顔をしていました。
「行ってた塾がね、私には全く合わなかったんだ。講師があれこれやいやい言ってくるばっかりで一ミリも頭に入ってこなかったんだよ。だから辞めたんだけど、それでお母さんに、『お金が無駄になった!』って延々イヤミ言われてさあ……」
実はフミは、来年の高校受験に向けて塾に通っていたのです。しかし私の目からもあまり効果が出ていないことは感じられていましたので、注視していたのです。
「もしよろしければ、私が家庭教師をしますよ」
とは申し上げていたのですが、お母さんの方が熱心に塾を勧めたようですね。ただそれも、<受験を控えた娘に対して気を遣っている母親>を演じるためのポーズでしかないと言います。
「はあ…家に帰るのが憂鬱……」
夕方、いつものようにヒロ坊くんの家に集まっていた時、フミが溜息と共に漏らしました。
そして、
「お金を無駄にするなとか言って、一番無駄遣いしてるの自分じゃん。見栄張って豪勢なランチしにいって服とかバッグとか買いまくって。ほとんど着てないし使ってないの私知ってるんだよ?
エステとかも行ってるみたいだけど、いくらやっても結局はただのおばちゃんじゃん。それが無駄遣いじゃなかったら何だって言うのよ……!」
と、絞り出すように言いました。
そんなフミに、イチコが、
「どんまい、フミ。仕事は大変だと思うけど」
そう声を掛けます。
イチコが言った<仕事>というのは、フミは現在、自宅に帰ることを、
『レンタル家族としての仕事に行っているだけ』
と自身に言い聞かせているのです。イチコはそれに合わせて言ったのでした。それに対してフミも、
「うん、そうだね。仕事だから仕事だから。気にしない。あの人たちはただの職場の人たち。今から仕事に行くだけ。うん、ただの仕事」
と、自身に言い聞かせるように応えたのでした。
その一方、カナは、
『もう、気にしても仕方ないかなって自分でも思うんだ。私の力じゃ家族を元に戻すことはできない。だったらそれをいつまでも悔やんでたって始まらないよ。私は私で幸せになる。家族には頼らない。家族には期待しない。だって、家族って言っても私とは別人なんだからさ』
と言って、自身の置かれている状況や実の家族についてある種の諦観を得ているようです。それはもはや達観と言ってもいいのかもしれません。
実際、波多野家が抱える問題は、高校生であるカナにはどうすることもできないものですし。そういう、自分の力ではどうすることもできないものに精神的に囚われ続けても解決しないというのも事実でしょうね。
翌日、フミはひどく疲れた顔をしていました。
「行ってた塾がね、私には全く合わなかったんだ。講師があれこれやいやい言ってくるばっかりで一ミリも頭に入ってこなかったんだよ。だから辞めたんだけど、それでお母さんに、『お金が無駄になった!』って延々イヤミ言われてさあ……」
実はフミは、来年の高校受験に向けて塾に通っていたのです。しかし私の目からもあまり効果が出ていないことは感じられていましたので、注視していたのです。
「もしよろしければ、私が家庭教師をしますよ」
とは申し上げていたのですが、お母さんの方が熱心に塾を勧めたようですね。ただそれも、<受験を控えた娘に対して気を遣っている母親>を演じるためのポーズでしかないと言います。
「はあ…家に帰るのが憂鬱……」
夕方、いつものようにヒロ坊くんの家に集まっていた時、フミが溜息と共に漏らしました。
そして、
「お金を無駄にするなとか言って、一番無駄遣いしてるの自分じゃん。見栄張って豪勢なランチしにいって服とかバッグとか買いまくって。ほとんど着てないし使ってないの私知ってるんだよ?
エステとかも行ってるみたいだけど、いくらやっても結局はただのおばちゃんじゃん。それが無駄遣いじゃなかったら何だって言うのよ……!」
と、絞り出すように言いました。
そんなフミに、イチコが、
「どんまい、フミ。仕事は大変だと思うけど」
そう声を掛けます。
イチコが言った<仕事>というのは、フミは現在、自宅に帰ることを、
『レンタル家族としての仕事に行っているだけ』
と自身に言い聞かせているのです。イチコはそれに合わせて言ったのでした。それに対してフミも、
「うん、そうだね。仕事だから仕事だから。気にしない。あの人たちはただの職場の人たち。今から仕事に行くだけ。うん、ただの仕事」
と、自身に言い聞かせるように応えたのでした。
0
お気に入りに追加
106
あなたにおすすめの小説
まずはお嫁さんからお願いします。
桜庭かなめ
恋愛
高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。
4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。
総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。
いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。
デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!
※特別編3が完結しました!(2024.8.29)
※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。
※お気に入り登録、感想をお待ちしております。
嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道
Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道
周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。
女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。
※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?
悠
ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。
それは——男子は女子より立場が弱い
学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。
拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。
「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」
協力者の鹿波だけは知っている。
大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。
勝利200%ラブコメ!?
既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
男女比1:10000の貞操逆転世界に転生したんだが、俺だけ前の世界のインターネットにアクセスできるようなので美少女配信者グループを作る
電脳ピエロ
恋愛
男女比1:10000の世界で生きる主人公、新田 純。
女性に襲われる恐怖から引きこもっていた彼はあるとき思い出す。自分が転生者であり、ここが貞操の逆転した世界だということを。
「そうだ……俺は女神様からもらったチートで前にいた世界のネットにアクセスできるはず」
純は彼が元いた世界のインターネットにアクセスできる能力を授かったことを思い出す。そのとき純はあることを閃いた。
「もしも、この世界の美少女たちで配信者グループを作って、俺が元いた世界のネットで配信をしたら……」
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる