9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

大希

矛盾を抱えた生き物

一週間後の日曜日。またヒロ坊くんと千早は山下さんのお宅に伺います。

さすがに土日両方というのは負担になるかと考え、今後はなるべく日曜日だけということにしていこうと私は考えていました。

もちろん、沙奈子さんが『来てほしい』と望まれるのでしたら、土曜日でも行かせていただこうとは思うのですが、土曜日は山下さんご家族が水入らずで過ごせる唯一の日でもありますし、遠慮した方がいいのではというのも正直な気持ちではあります。

すると、千早達が肉じゃがを作っている後ろで、

「実は昨日、家族で旅館に行ってたんです。日帰りの入浴プランってことで。沙奈子も気に入ってくれたんですけど、その旅館も集客には苦労してるみたいで。難しいですね」

と山下さんが話を切り出されました。それを受けて私も応えます。

「そうですね。両親を見ていても、＜経営＞というのは一筋縄でいかないというのを感じます。特に母はエステサロンを経営してますが、競合他社がひしめき合う中でいかにして生き残るかということにはいつも頭を悩ませてるようです。

ですが、そこは強固なリピーターを掴むことに力を入れてるとのことです。奇抜なサービスよりも丁寧な接客を心掛けて、もし他のところに試しに行かれても『やっぱりここが一番安心する』ってことで戻ってきていただけるようにというのを大切にしているとのことでした。私は、そんな誠実な経営を心掛けている母を誇りに思います」

素直な私の意見でした。両親を傍で見ていてそう感じているのです。

両親が忙しくてあまり構ってもらえなかったことを残念に思っているのも事実ではありますが、人間というのは元より矛盾した思考や感情を同時に持つことができる生き物だと私は感じています。むしろ、『矛盾がない』ことの方が不自然だと思うのです。でなければ、自身の行いを棚に上げて他人を責めるような真似もできないでしょうし。

よくいますよね。ネットなどでも、他人を口汚く罵るというマナー違反をしながら、他人のマナーをあげつらう方が。

そのような矛盾があるのも、元々人間が矛盾というものを潜在的に抱えた生き物だからだと思うのです。

地球に生まれた動物の一種でありながら、自然に反した生き方を望むというのも、考えてみれば大きな矛盾でしょう。

ですが、矛盾を抱えていることそのものは罪悪などではないと私は思っています。自身の矛盾を棚に上げて他人を一方的に責めたりするから問題になるというだけで。