9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

大希

類い稀な母性

振り返ってみると、私は、ヒロ坊くんの具体的な振る舞いについてはあまり触れてこなかったような気がします。

もちろんまったく触れてこなかった訳ではないのですが、彼以外の人について触れている分量に比べて明らかに少ないと私自身思うのです。

それは何故か？

これは結局、

『彼は普段から、何か特別な振る舞いをするわけではない』

ということに尽きるのではないでしょうか。

彼の普段の振る舞いはどこまで行っても見た目通りの

＜穏やかで朗らかな子供＞

でしかなく、様々な厳しい背景を持つ千早や沙奈子さんやカナやフミのようにことさら触れないと説明ができないような事柄がないのです。

完全に普段通りの彼に触れようと思うと、

『今日も彼は優しくて可愛くて朗らかで、傍にいるだけでとても癒されました』

の一行で終わってしまうのです。本当にそれ以外に表現しようがないのです。

ですが、私は気付いてしまいました。それがどれほどすごいことであるのかを。

『何一つ触れる必要のない、特別じゃない平穏な毎日をただ続けられる』

ことがどれほど稀有な事例であるのかを。

世の中の殆どの人は、毎日変化のない同じような毎日を送っていると思いつつもその中でストレスを感じたり、愚痴をこぼしたくなるようなことがあったり、何か本人としては『触れずにはいられない』ことがあるのだと思います。

しかし、ヒロ坊くんにはそれが『ない』のです。

もちろん、何一つ彼にとって嫌なことが起こらないという訳ではありません。

実を言えばこれまでにも、学校でクラスの子とちょっとした行き違いがあり落ち込んで帰ってきたというようなことは何度かありましたし、体が小さいことを揶揄されて嫌な思いをしたというようなことは確かにあったのですが、彼にとってはそういうことさえ本当に些細な日常の一コマでしかなく、ことさら針小棒大に描写しなければいけないことではないのです。

いえ、本人にとってはその時には些細なことではないのでしょうが、何か嫌なことがあっても家に帰って落ち着くまでお義父さんに抱き締めてもらえばそれでもう解決してしまい、私が彼の家に行く頃には何事もなかったかのように明るい笑顔の彼に出迎えてもらえていたのです。

そう。彼が、外から見えると何事もなくただ毎日を平穏に送れているのは、何よりもお義父さんの、山仁さんの存在があってこそのものなのです。

我が子が落ち込んで帰ってきた時に、余計なことを言わずただその心の傷が癒えるまでそっと抱き締めてくれる。

それは、まさに＜母性＞そのものなのでしょう。

お義父さんは、山仁さんは、男性でありながら、父親でありながら、類い稀な母性に溢れた方であり、その山仁さんの下で、彼はただただ健やかに育ってるのです。