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大希

思い切り泣けば

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目に涙をいっぱい溜めて、ほとんど叫ぶようにして慟哭するカナを、私は真っ直ぐに見詰めました。彼女の<想い>を受け止めたかったからです。その私の前で、カナは感情を爆発させました。

「ふざけんなっっ!!」

がんっ!とテーブルを叩き、ボロボロと涙をあふれさせて。それはもはや、怨嗟の声だったでしょう。

「あいつは確かに犯罪者だよ! でも、ネットに隠れてこそこそ嫌がらせしてる奴らは何だってんだ!? あいつらのやってることが正義なのかよ!? あいつらが正義だって言うのかよ!? 違うだろ!? 正義ってのはそういうもんじゃないよな!? なあ、ピカ…!?」

そこまで言って、今度は頭を抱えてテーブルに突っ伏しました。体をわなわなと震わせて、爪を立てて頭をがりがりと掻きむしりながら。

「ごめん、ピカ……ごめん……!」

そんなカナの背中を、イチコとフミが撫でさすります。

「…ちくしょう……ちくしょう……」

もう、誰に向けてのものなのかも分からない言葉がカナの口から漏れ出ていました。

一通り感情を吐き出し終えたと感じた私は、なるべく感情を込めずに応えます。

「…カナ……あなたの言う通りです……

法を犯した者が法の裁きを受けるのは当然ですが、その家族に対して私刑を加えるのは正義などでは決してありません。日本では私刑は禁止されています。家族への嫌がらせは、犯罪行為なのです。彼らに正義などありません。正義を騙ったただの犯罪者です。だから時折、限度を超えた嫌がらせをした者が実際に逮捕されたりするのです。

けれど残念ながらそういう犯罪行為を全て取り締まることは、現実問題として叶いません。個々人のモラルに頼るしかないというのが現状です。

また、犯罪行為を批判するということ自体は、言論の自由、表現の自由によって保障されるべきものです。非難されるべきは罵詈雑言や誹謗中傷であり、冷静な意見としての<批判>とは区別しなければなりません。

多くの人がそれを理解してくれることでこのような苦しみは減らすことが可能だと私は考えます。いずれはそうなっていくべきだと考えています。しかし今の時点では、私達がこうしてカナの声を聞き、その気持ちを受けとめることしかできません。

カナ。私達はあなたの味方です。あなたが言いたいと思ったことはすべて私達が受けとめます。だから我慢しないでください。ここにいる私達は誰一人、あなたの本音を否定したりはしません。

ここにいる私達も、あなたの家族なんです。私達があなたを支えます。だから甘えてください。言いたいことを言ってください。胸の中にあるものを全部吐き出してください。私達は、その為にここにいるんですから……」

私が言葉を途切れさせると、カナは顔を上げて、そのまま泣き出しました。先程よりもさらにボロボロと涙をこぼし、鼻水まで涙のようにあふれさせ、小さな子供みたいに泣き出したのです。

そんな彼女の姿を笑う人間はここにはいません。

私も、イチコも、山仁さんも、フミも、山下さんも、絵里奈さんも、玲那さんも、全員がカナの味方です。

ですから、カナ。今だけは思い切り泣けばいいと思います……

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