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大希

<正義>の為ではなく

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玲那さんが事件を起こしてしまったのは、不幸な偶然からでした。事故によってお母さんが亡くなり、それに伴って、仮にも血の繋がった実の母親の葬儀くらいは顔を出す必要があるかもしれないと考えてしまったことが事件に至る大きな大きなきっかけになってしまったのです。

せめてそれがなければ、あの事件は起こっていなかったかもしれません。何故なら、玲那さんは山下さんや絵里奈さんの娘として、沙奈子さんのお姉さんとして、幸せに暮らしていたのですから。その幸せを自ら壊さなければいけな理由など、どこにもなかったのですから。

しかも、

『自分をとことんまで虐待していた母親とはいえ、亡くなってしまったのなら…』

と考えてしまうような、本当に根は真面目で優しい方なのです。それほどの方が事件を起こさずにいられなかったのです……

それに比べればカナのお兄さんは実に身勝手極まりないと言えるのかもしれません。しかしだからと言ってカナがその巻き添えになるのを看過できません。

だから私は、弁護士や探偵を駆使して、嫌がらせやマスコミによるメディアスクラムに対処しようとしたのです。

ですがそれは、ある程度の効果は発揮したものの、すべてを防ぐには至らず、カナの家庭が崩壊するのを回避することができなかったというのも事実でした。

だから、沙奈子さんがカナと同じ目に遭わないようにする為に敢えて<別居>という形を取るのは、もしかすると自然な流れだったのかもしれません。

幸い、玲那さんが今の山下さんの家でほぼ同居しているまでのことについては知られていなかったことが功を奏しました。その上で、マスコミについては弁護士を代理人に立てることで取材先を絞らせることにも成功したのです。

嫌がらせについても、玲那さんの元の自宅への落書き等については、マンションの管理会社とも協議の上、器物損壊の容疑で刑事告訴も検討しています。

それらはすべて、私自身の為にも行うことです。カナの友人として彼女を守る為、そして、友人である沙奈子さんを気遣うヒロ坊の笑顔を守る為、私は、私にできうるすべての手段を用いることを躊躇いません。

<正義>の為ではなく、私自身の為に。

私の大切な人達に仇なす者達を、私は許せないのです。

私が、母が経営するエステサロンで使う美容器具の開発でアイデアを出し、それが特許を取って、さらには海外での商品展開にまで至り、年間一千万円を超える特許料が支払われるようになったことは、この時の為にあったのだとさえ思えるのでした。

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