上 下
68 / 470
閑話休題

問答

しおりを挟む
ある日、私、星谷美嘉ひかりたにみかは、ヒロ坊くんのお父さんである山仁やまひとさんに問いました。

これは、私にとっては大切なことでした。ヒロ坊くんのひととなりを知る為に必要な行為の一環だったのです。



「山仁さんは、この世の問題は全て、話し合いによって解決できるとお考えですか?」

私の問いに対し、山仁さんは少し思案を巡らせるように視線を逸らした後、ゆっくりと答えてくださいました。

「……その問いに対する答えとしては、『原則としてイエス』かな」

その答えに対し、私はさらに問い掛けます。

「…『原則としてイエス』とは、どういう意味ですか?」

今度の問いに対しては、山仁さんの返答はすぐでした。

「それは、戦争の歴史が物語っているよ。何故なら、殆どの戦争は、少なくとも近代の戦争の殆どは、最終的には『和平交渉』や『停戦調停』といった話し合いによって解決が図られるからね。

戦闘行為は、結局、話し合いを有利に進める為の手段に過ぎない」

「なるほど。では、その戦闘行為そのものを話し合いによって回避することは可能だと思いますか?」

「条件付きでイエス。双方に話し合いを行う能力と意図があれば可能だろう」

「回避できない場合もあると…?」

「うん。相手にそもそも話し合う気がなければ話し合いは成立しないからね」

「相手を話し合いの席に着かせる為には戦闘行為も必要ということでしょうか?」

「戦闘を仕掛けようとする相手に対し、戦闘では優位に立てないと思わせる為の手段の一つとしては、あるのは当然だと思う」

「意外です。山仁さんは暴力を完全に否定してる方だと思っていましたから」

「暴力は否定するよ。ただ、身を守ることも否定する訳じゃないというだけかな。

相手の目的がそもそも完全な殲滅にあったとしたら、取れる手段は限られる。逃げるか、守りを完璧にして攻撃を無効化するか、あるいは徹底的に抗戦して撃退するかだと思う。三つしかない選択肢のうちの一つを捨てることはできないからね。

逃げるには、逃げる当てと逃げ切る能力が求められる。

守りに徹するには、相手の攻撃をすべて無効化できるほどの能力が求められる。

徹底的に抗戦するには、相手の攻撃力を上回る攻撃力が求められる。

どれも一長一短だ。となれば、その時々の状況によって取れる手段は違ってくると思う」

「そうですね。おっしゃりたいことは分かります。抗戦するにしても、それに見合う力がなければただの無駄死にになりますから」

「戦うべきかどうかの判断にも、相手を見極める能力が求められるね。

それに、『話し合い』という言葉について世間の人の多くは『平和的』とか『暴力の対極』とかいうイメージを持ってるように感じるけど、私はそうは思わない。『話し合い』というものの中には、本来、『騙し合い』や『腹の探り合い』や『恫喝』や『甘言』といったものが含まれる筈だから。

そもそも『話し合い』というもの自体が、決してただの綺麗事じゃないんだよ」

山仁さんの言葉に、私はストンと腑に落ちるものを感じたのです。

『ああ…やっぱりこの方が育ててらっしゃるヒロ坊くんなら、大丈夫です』

と。

「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」

だから私は、改めて素直に頭を下げさせていただいたのでした。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

まずはお嫁さんからお願いします。

桜庭かなめ
恋愛
 高校3年生の長瀬和真のクラスには、有栖川優奈という女子生徒がいる。優奈は成績優秀で容姿端麗、温厚な性格と誰にでも敬語で話すことから、学年や性別を問わず人気を集めている。和真は優奈とはこの2年間で挨拶や、バイト先のドーナッツ屋で接客する程度の関わりだった。  4月の終わり頃。バイト中に店舗の入口前の掃除をしているとき、和真は老齢の男性のスマホを見つける。その男性は優奈の祖父であり、日本有数の企業グループである有栖川グループの会長・有栖川総一郎だった。  総一郎は自分のスマホを見つけてくれた和真をとても気に入り、孫娘の優奈とクラスメイトであること、優奈も和真も18歳であることから優奈との結婚を申し出る。  いきなりの結婚打診に和真は困惑する。ただ、有栖川家の説得や、優奈が和真の印象が良く「結婚していい」「いつかは両親や祖父母のような好き合える夫婦になりたい」と思っていることを知り、和真は結婚を受け入れる。  デート、学校生活、新居での2人での新婚生活などを経て、和真と優奈の距離が近づいていく。交際なしで結婚した高校生の男女が、好き合える夫婦になるまでの温かくて甘いラブコメディ!  ※特別編3が完結しました!(2024.8.29)  ※小説家になろうとカクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想をお待ちしております。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

嫌われ女騎士は塩対応だった堅物騎士様と蜜愛中! 愚者の花道

Canaan
恋愛
旧題:愚者の花道 周囲からの風当たりは強いが、逞しく生きている平民あがりの女騎士ヘザー。ある時、とんでもない痴態を高慢エリート男ヒューイに目撃されてしまう。しかも、新しい配属先には自分の上官としてそのヒューイがいた……。 女子力低い残念ヒロインが、超感じ悪い堅物男の調子をだんだん狂わせていくお話。 ※シリーズ「愚者たちの物語 その2」※

【漫画版公開中】転移先は女子大生の部屋でした‐ある日、美少女姫様とイケメン騎士様が転がり込んできたら‐

原案:トウキ汐・作画:猫倉ありす
恋愛
本編完結済。後日談の漫画がアルファポリス内にて隔週更新始めました。 ーーーーーーーーーーーーーーー ある日、一人暮らしの女子大生『知花』の部屋へ、異世界から転移してきたのは、超美少女の王女『ソフィア』とイケメン騎士『ヒューズ』 お人好しの彼女はソフィアの世話係として、二人と一年限定で同居生活を送ることに。 ところがそれを知った男友達『太一』は、知花を口説いてくるようになり…。 長年知花に片想いする太一の猛攻と、何を考えているのかわからないが、ドキドキさせてくるヒューズに、知花はパニック寸前。 ずっと一番の友達だと思っていた太一と、いつかは異世界へ帰ってしまうヒューズ、知花の心はどちらを選ぶのか。 時々カラーイラスト、おまけ漫画付き。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

男女比1:10。男子の立場が弱い学園で美少女たちをわからせるためにヒロインと手を組んで攻略を始めてみたんだけど…チョロいんなのはどうして?

ファンタジー
貞操逆転世界に転生してきた日浦大晴(ひうらたいせい)の通う学園には"独特の校風"がある。 それは——男子は女子より立場が弱い 学園で一番立場が上なのは女子5人のメンバーからなる生徒会。 拾ってくれた九空鹿波(くそらかなみ)と手を組み、まずは生徒会を攻略しようとするが……。 「既に攻略済みの女の子をさらに落とすなんて……面白いじゃない」 協力者の鹿波だけは知っている。 大晴が既に女の子を"攻略済み"だと。 勝利200%ラブコメ!? 既に攻略済みの美少女を本気で''分からせ"たら……さて、どうなるんでしょうねぇ?

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

王族に婚約破棄させたらそりゃそうなるよね? ……って話

ノ木瀬 優
恋愛
ぽっと出のヒロインが王族に婚約破棄させたらこうなるんじゃないかなって話を書いてみました。 完全に勢いで書いた話ですので、お気軽に読んで頂けたらなと思います。

処理中です...