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閑話休題
問答
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ある日、私、星谷美嘉は、ヒロ坊くんのお父さんである山仁さんに問いました。
これは、私にとっては大切なことでした。ヒロ坊くんのひととなりを知る為に必要な行為の一環だったのです。
「山仁さんは、この世の問題は全て、話し合いによって解決できるとお考えですか?」
私の問いに対し、山仁さんは少し思案を巡らせるように視線を逸らした後、ゆっくりと答えてくださいました。
「……その問いに対する答えとしては、『原則としてイエス』かな」
その答えに対し、私はさらに問い掛けます。
「…『原則としてイエス』とは、どういう意味ですか?」
今度の問いに対しては、山仁さんの返答はすぐでした。
「それは、戦争の歴史が物語っているよ。何故なら、殆どの戦争は、少なくとも近代の戦争の殆どは、最終的には『和平交渉』や『停戦調停』といった話し合いによって解決が図られるからね。
戦闘行為は、結局、話し合いを有利に進める為の手段に過ぎない」
「なるほど。では、その戦闘行為そのものを話し合いによって回避することは可能だと思いますか?」
「条件付きでイエス。双方に話し合いを行う能力と意図があれば可能だろう」
「回避できない場合もあると…?」
「うん。相手にそもそも話し合う気がなければ話し合いは成立しないからね」
「相手を話し合いの席に着かせる為には戦闘行為も必要ということでしょうか?」
「戦闘を仕掛けようとする相手に対し、戦闘では優位に立てないと思わせる為の手段の一つとしては、あるのは当然だと思う」
「意外です。山仁さんは暴力を完全に否定してる方だと思っていましたから」
「暴力は否定するよ。ただ、身を守ることも否定する訳じゃないというだけかな。
相手の目的がそもそも完全な殲滅にあったとしたら、取れる手段は限られる。逃げるか、守りを完璧にして攻撃を無効化するか、あるいは徹底的に抗戦して撃退するかだと思う。三つしかない選択肢のうちの一つを捨てることはできないからね。
逃げるには、逃げる当てと逃げ切る能力が求められる。
守りに徹するには、相手の攻撃をすべて無効化できるほどの能力が求められる。
徹底的に抗戦するには、相手の攻撃力を上回る攻撃力が求められる。
どれも一長一短だ。となれば、その時々の状況によって取れる手段は違ってくると思う」
「そうですね。おっしゃりたいことは分かります。抗戦するにしても、それに見合う力がなければただの無駄死にになりますから」
「戦うべきかどうかの判断にも、相手を見極める能力が求められるね。
それに、『話し合い』という言葉について世間の人の多くは『平和的』とか『暴力の対極』とかいうイメージを持ってるように感じるけど、私はそうは思わない。『話し合い』というものの中には、本来、『騙し合い』や『腹の探り合い』や『恫喝』や『甘言』といったものが含まれる筈だから。
そもそも『話し合い』というもの自体が、決してただの綺麗事じゃないんだよ」
山仁さんの言葉に、私はストンと腑に落ちるものを感じたのです。
『ああ…やっぱりこの方が育ててらっしゃるヒロ坊くんなら、大丈夫です』
と。
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」
だから私は、改めて素直に頭を下げさせていただいたのでした。
これは、私にとっては大切なことでした。ヒロ坊くんのひととなりを知る為に必要な行為の一環だったのです。
「山仁さんは、この世の問題は全て、話し合いによって解決できるとお考えですか?」
私の問いに対し、山仁さんは少し思案を巡らせるように視線を逸らした後、ゆっくりと答えてくださいました。
「……その問いに対する答えとしては、『原則としてイエス』かな」
その答えに対し、私はさらに問い掛けます。
「…『原則としてイエス』とは、どういう意味ですか?」
今度の問いに対しては、山仁さんの返答はすぐでした。
「それは、戦争の歴史が物語っているよ。何故なら、殆どの戦争は、少なくとも近代の戦争の殆どは、最終的には『和平交渉』や『停戦調停』といった話し合いによって解決が図られるからね。
戦闘行為は、結局、話し合いを有利に進める為の手段に過ぎない」
「なるほど。では、その戦闘行為そのものを話し合いによって回避することは可能だと思いますか?」
「条件付きでイエス。双方に話し合いを行う能力と意図があれば可能だろう」
「回避できない場合もあると…?」
「うん。相手にそもそも話し合う気がなければ話し合いは成立しないからね」
「相手を話し合いの席に着かせる為には戦闘行為も必要ということでしょうか?」
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「意外です。山仁さんは暴力を完全に否定してる方だと思っていましたから」
「暴力は否定するよ。ただ、身を守ることも否定する訳じゃないというだけかな。
相手の目的がそもそも完全な殲滅にあったとしたら、取れる手段は限られる。逃げるか、守りを完璧にして攻撃を無効化するか、あるいは徹底的に抗戦して撃退するかだと思う。三つしかない選択肢のうちの一つを捨てることはできないからね。
逃げるには、逃げる当てと逃げ切る能力が求められる。
守りに徹するには、相手の攻撃をすべて無効化できるほどの能力が求められる。
徹底的に抗戦するには、相手の攻撃力を上回る攻撃力が求められる。
どれも一長一短だ。となれば、その時々の状況によって取れる手段は違ってくると思う」
「そうですね。おっしゃりたいことは分かります。抗戦するにしても、それに見合う力がなければただの無駄死にになりますから」
「戦うべきかどうかの判断にも、相手を見極める能力が求められるね。
それに、『話し合い』という言葉について世間の人の多くは『平和的』とか『暴力の対極』とかいうイメージを持ってるように感じるけど、私はそうは思わない。『話し合い』というものの中には、本来、『騙し合い』や『腹の探り合い』や『恫喝』や『甘言』といったものが含まれる筈だから。
そもそも『話し合い』というもの自体が、決してただの綺麗事じゃないんだよ」
山仁さんの言葉に、私はストンと腑に落ちるものを感じたのです。
『ああ…やっぱりこの方が育ててらっしゃるヒロ坊くんなら、大丈夫です』
と。
「ありがとうございます。それを聞いて安心しました」
だから私は、改めて素直に頭を下げさせていただいたのでした。
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