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外伝

外伝1 「お姉ちゃんはセレブさん」

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わたし、あいつら大っ嫌い。自分達だってまだ子供のクセに、お母さんがお仕事で家にいないからってエラそうにして、うるさいしすぐ叩くし。昨日も、千晶ちあきお母さんの化粧品を勝手に使ってたから「いいの?」って聞いたら、

「子供には関係ないんだからいいんだよ! 生意気言ってんな!」

って頭を叩かれた。

「何で叩くの!?」

って聞いたらまた、

「お前みたいな生意気な子供は厳しくしなきゃいけないんだよ! こういうのは躾って言うんだよ。お前みたいなのはちゃんと躾しないと将来ロクでもない大人になるんだよ!」

とか言いながら叩かれた。

でもわたし、そんなのウソだってこともう知ってる。大希ひろきくんのお姉ちゃんが言ってたもん。力の強い人が弱い人を叩くのってヒキョウだって。

それにお前だってまだ中一だよね。全然子供だよね。ロクでもない大人になりそうなのはお前の方だって、わたし思う。

お正月にわたしがもらったお年玉も、「お母さんにあずかってもらう」言って持って行ったけど、ほんとにお母さんに渡したのかなって疑ってる。だけどそんなこと言ったらまた叩かれるのに決まってるから言えないけど。

でも千晶に比べたら、千歳ちとせの方は、ピカお姉ちゃんに怒られてからだいぶマシになったと思う。

わたしのこと無視するけど、どなられたり叩かれたりするよりはずっといい。ザマアミロ。

だけどほんとはまだ、お小遣い盗ったって言って叩かれたこと、わたし怒ってる。自分が他のところに置いただけなのを忘れてたクセにわたしが盗ったって疑って、わたしがふっとぶくらい思いっきり叩いて。

そんなひどい事したんだからもっともっと怒ってやって欲しかったし仕返ししたかったけど、ピカお姉ちゃんがそれはダメだって言うの。あんなひどい事したんだからそんなのおかしいってわたしは思うけど、ピカお姉ちゃんの言うことだから仕方ないって思ってガマンしてる。

ね、だからわたし、いい子だよね?

ピカお姉ちゃんの言うことちゃんと聞いてるよ。

やっぱりわたし、ピカお姉ちゃんがほんとのお姉ちゃんだったら良かったのにって思った。ピカお姉ちゃんの言う事だったら聞けるもん。

それにピカお姉ちゃんはお金持ちで、大希くんの誕生日にはパソコンとかプレゼントしてたし。ピカお姉ちゃんは大希くんのこと大好きだからプレゼントが特別になるのは当たり前ってわたしも思うけど、わたしだっていい子にしてたら誕生日のプレゼントになにかすっごいのプレゼントしてもらえるよね? わたしの誕生日は六月十九日だよ。

でも今は先に、千晶のことお姉ちゃんに何とかしてもらいたいな。お姉ちゃんがいたら、千晶なんか全然怖くない!

日曜日になったらまたピカお姉ちゃんに会える。その時に、千晶のこと言いつけてやろう。



日曜日になって、みんなで一緒に勉強するからわたしは大希くんの家に向かって歩いてた。そうしたらもうすぐ着くところで、

「こんにちは千早さん、今からヒロ坊くんのところですか?」

って、後ろから声を掛けられた。ピカお姉ちゃんの声だった。

「お姉ちゃん」ってわたしが振り向いたら、ピカお姉ちゃんがタクシーから降りて、私に手を振ってるところだった。ナイスタイミングだって思った。大希くんの家だと何かちょっと話しにくい気がしたけど、二人だけだったら大丈夫って気がする。

「お姉ちゃん、あのね。千晶が意地悪してくるの。だからお姉ちゃんに千晶のこと怒ってほしくて」

って言ったら、ピカお姉ちゃんは驚いたみたいな顔してた。

「え…と、その千晶さんという人は誰でしょう? クラスの子ですか?」

お姉ちゃんにそう言われて、私はちゃんと説明してなかったのを思い出した。だよね。お姉ちゃん知らないんだよね。

「えとね、千晶っていうのはわたしのほんとのお姉ちゃんで、中一。それで、この前ピカお姉ちゃんに怒られてたのが千歳で、中三のほう。千歳はあれからあんまり意地悪とかしてこないけど、千歳が大人しくなったから今度は千晶が調子に乗ってきてるみたい。ほんと腹立つ。だからピカお姉ちゃんに、千晶のことこらしめてほしいの」

とか、ここまで説明したら分かるよね。

だけどその時、ピカお姉ちゃんは何か悲しそうな顔してるみたいに見えた。それからその場にしゃがんだから、わたしがお姉ちゃんを見下ろす感じになった。そうしたらお姉ちゃんが、

「千早さん。では具体的にどういうことをされたんですか? その千晶さんがどんなことをしたのか、教えてください」

って言うから、千晶が最近どれだけ調子に乗ってるか、お姉ちゃんに教えてあげた。家の一番大きなテレビで自分ばっかりゲームしてたり、わたしがテレビ視たいって言ったら小さい方のテレビで視るように言ったり、わたしのコロッケの方が大きいって言って勝手に自分のと換えたり、お母さんの化粧品を勝手に使ってそれを注意したら逆ギレして私の頭を叩いたことも言った。こんな意地悪なヤツ、怒られて当たり前だよね?

それなのにお姉ちゃんは、首を横に振った。

「よく聞いてください。確かに私はあの時、お姉さんに意地悪されたら相談してくださいと言いました。でもそれは、お姉さんのことが気に入らなかったら私が千早さんの代わりに仕返しをしてあげますということじゃないんです。それは分かってほしいと思います」

とか言われたけど、わたしにはちょっとむずかしかった。だから聞いたんだ。

「でも、お姉ちゃんはわたしが意地悪されたら助けてくれるんだよね? だから助けてくれるんだよね?」

それなのにお姉ちゃんはやっぱり首を横に振った。何が何だか分からなかった。

なにそれ? どういうこと? 助けてくれないの?

「助ける、というのとはちょっと違います。もし警察とかが関わるような事件だったら確かに助けなくちゃいけないと思います。ですから、千歳さんですか? もう一人のお姉さんの時は、お金が盗まれたと思って千早さんを疑ったお姉さんがほっぺたに叩いた痕が残るくらい強く叩いた。

それは暴行と言って、警察に逮捕されることもある良くないことなんです。なので、そのまま放っておくと大きな事件になってしまうかも知れないと思ったから、直接注意させていただいたんです」

「…? ……?」

それは私にはやっぱりむずかしくてよく分からなかった。

分からなかったけど、お姉ちゃんが私を助けてくれないんだってことは分かった気がした。何かいろいろ言ってるけど、全部言い訳なんだよね? だからもういいやと思った。すごく腹が立ってきた。それで言ってやったんだ。

「意地悪されたら相談してって言ったじゃん! お姉ちゃんウソ吐いたんだ? じゃあもういいよ! やっぱりお前もあいつらと一緒なんだ!!」

わたしは裏切られたって気持ちになって、涙が出てきて、ここにいたくないって思って走ろうとした。でも手を掴まれて、走れなかった。

「離して! ウソ吐き!!」

手を振って何とか外そうとしたけど、外せなかった。それどころか、ぎゅってされて、動くことも出来なくなった。

『なにすんだよ』って言おうとしたら、

「ごめんなさい…」

って言われた。

「……」

わたしは驚いて何も言えなくなった。『ごめんなさい』なんて、ほんとのお姉ちゃんやお母さんにも言ってもらったことなかった。

「ごめんなさい…ごめんなさい……私が上手に言えなくて、千早さんを傷付けてしまったんですね。ごめんなさい……!」

わたしのことをぎゅってしながらお姉ちゃんが何回も謝るから、わたしも怒れなくなってきた。怒れなくなってきたけど、わたしは前からちょっと思ってたことを思わず言ってしまってた。

「なんだよ…わたし、お姉ちゃんのことほんとのお姉ちゃんだって思いたいのに…お姉ちゃん、わたしのこと『千早さん』って…妹だったら『千早さん』っておかしいと思う……」

わたしがそう言ったら、お姉ちゃんはわたしの顔を見て言った。

「そうですね、その通りですね、千早さ…いえ、千早。あなたはもう私にとっても家族です。なのにごめんなさい。他人行儀でしたね」

その時のお姉ちゃん、なんか泣きそうな顔してた。それでわたしも、ほんとに怒れなくなってた。

結局、お姉ちゃんは千晶のことを怒ってくれなかったけど、その代わり、

「千晶さんのことをもし本当にお姉さんだと思えないのでしたら、逆に、よその家にいるちょっと意地悪な先輩だと思うようにしてみたらどうでしょう? 

学校に行ったらヒロ坊くんもいて、学校の方がほっとするんじゃないですか? 

だから学校にいる時とか、今日みたいにみんなで集まる時の方を千早の<家>だと思えば、そんなに気にならなくなるかもしれませんよ?」

って言われた。

言われた時は『そんなの無理』って思ったけど、でもなんか最近はほんとに大希くんやみんなと一緒にいてる時の方が家にいるみたいな気持ちになれてる感じだった。そしたらお姉ちゃんが言ってたみたいに、千晶のことも前ほどは腹も立たなくなってきてた。

お姉ちゃんすごいや…!

高校生って、こんなにすごいのかな? それともお姉ちゃんがセレブさんだからかな? どっちか分かんないけど、お姉ちゃんだったらどっちでもいいかなって、わたしは思ってたんだ。

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