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黒歴史 その9
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それから一時間。父は市内をぐるぐると自動車で走りながら、とうとうと私に<人としての在り方>を説いてきました。
私の考え方がいかに危険で、これまでの人類の歴史で数々の失敗と途方もない被害を生み出してきたものであるかを、歴史上の事実を引用して説明してくださったのです。
ですが私は、正直申し上げて、父の話の半分も聞いていなかったかもしれません。それらは私にとってはまるで納得のいかない、衆愚を生み出す考え方そのものとしか思えなかったからです。
父は確かに優秀な方でそれが故に大企業の重役にまでなれたのでしょう。けれど、だからって私の考えを頭ごなしに否定するという行為については、到底承服しかねます。
でも、だからこそ今では分かります。
この時、私が父に対して抱いていた反発と、田上さんが私に対して抱いていた感情とが非常に類似するものであったということが。
私は、自分が田上さんに対してやったことを父にされて、それを『理不尽だ!』と感じていたのです。
けれどこの時の私はまだ、そのことに気付くことができませんでした。
そのまま父に連れられて田上さんのご自宅を訪れ、田上さんとそのご両親に謝罪させられる段になっても、
『正しいのは私の方だということを、いつかきっと証明してみせます。父の鼻を明かしてみせます……!』
と、帰ってきた田上さんに頭を下げて「申し訳ありませんでした」とお詫びしつつも考えていました。
そう。謝罪はしながらも反省などしていなかったのです。
そして私はこの時の経験から、口先だけの謝罪に意味などないことを理解するのですが、この時点ではやはり気付くことができていませんでした。
また、父がこの時、田上さん本人だけでなくご両親、特にお父さんに対して謝罪を希望したのは、田上さんのお父さんが、市の、企業に対する許諾を管轄する部署の責任者であったのが一番の理由であった事実を、この時、知ることになりました。
父は、娘である私が、田上さんに迷惑を掛けることで、企業活動に何らかの支障が出ることを懸念し、このような対応を取ったということです。
平身低頭、田上さんのお父さんに謝罪する父のその姿は、確かに企業の責任者たる者の判断としては正しかったのでしょう。
田上さんのお父さんから、
「あなたのお子さんがしたことは、私の仕事には関係ありません。私は定められたことを粛々と行うだけです」
という言質を引き出したのは立派だったのだと思います。
でも、私自身としては、
『先ほどは人としての在り方を説いてらっしゃいましたが、結局、企業の利益だけが一番大事なのですね……』
という反発を抱いてしまったこともまた、事実なのでした。
私の考え方がいかに危険で、これまでの人類の歴史で数々の失敗と途方もない被害を生み出してきたものであるかを、歴史上の事実を引用して説明してくださったのです。
ですが私は、正直申し上げて、父の話の半分も聞いていなかったかもしれません。それらは私にとってはまるで納得のいかない、衆愚を生み出す考え方そのものとしか思えなかったからです。
父は確かに優秀な方でそれが故に大企業の重役にまでなれたのでしょう。けれど、だからって私の考えを頭ごなしに否定するという行為については、到底承服しかねます。
でも、だからこそ今では分かります。
この時、私が父に対して抱いていた反発と、田上さんが私に対して抱いていた感情とが非常に類似するものであったということが。
私は、自分が田上さんに対してやったことを父にされて、それを『理不尽だ!』と感じていたのです。
けれどこの時の私はまだ、そのことに気付くことができませんでした。
そのまま父に連れられて田上さんのご自宅を訪れ、田上さんとそのご両親に謝罪させられる段になっても、
『正しいのは私の方だということを、いつかきっと証明してみせます。父の鼻を明かしてみせます……!』
と、帰ってきた田上さんに頭を下げて「申し訳ありませんでした」とお詫びしつつも考えていました。
そう。謝罪はしながらも反省などしていなかったのです。
そして私はこの時の経験から、口先だけの謝罪に意味などないことを理解するのですが、この時点ではやはり気付くことができていませんでした。
また、父がこの時、田上さん本人だけでなくご両親、特にお父さんに対して謝罪を希望したのは、田上さんのお父さんが、市の、企業に対する許諾を管轄する部署の責任者であったのが一番の理由であった事実を、この時、知ることになりました。
父は、娘である私が、田上さんに迷惑を掛けることで、企業活動に何らかの支障が出ることを懸念し、このような対応を取ったということです。
平身低頭、田上さんのお父さんに謝罪する父のその姿は、確かに企業の責任者たる者の判断としては正しかったのでしょう。
田上さんのお父さんから、
「あなたのお子さんがしたことは、私の仕事には関係ありません。私は定められたことを粛々と行うだけです」
という言質を引き出したのは立派だったのだと思います。
でも、私自身としては、
『先ほどは人としての在り方を説いてらっしゃいましたが、結局、企業の利益だけが一番大事なのですね……』
という反発を抱いてしまったこともまた、事実なのでした。
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