9歳の彼を9年後に私の夫にするために私がするべきこと

京衛武百十

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迷者不問 その3

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「……」

私は黙ってイチコの言葉に耳を傾けます。口を挟むこともできません。だけど、

「だって、ヒロ坊も人間だもん。自分のことは自分で決めなきゃ。ピカは、自分のことも自分で決められないような人が好きなわけじゃないって私は思ってたけど、違う?」

そう言われた時には、

『確かに……!』

と、深く頷きました。

確かにそうです。私は彼のことが好きだけど、だからって私の言いなりになって自分では何も決められない人になって欲しいわけじゃありません。イチコの言葉は、私にそれを思い出させてくれました。

「高校生のピカと小学生の女の子でこんなこと言うのも変かも知れないけど、やっぱりそこは正々堂々と勝負しようよ。ピカがヒロ坊を一人前の男の人に育てたいって言うんだったら、それを貫けばいいと私は思う。

石生蔵さんは石生蔵さんで彼女なりのやり方でアピールしてくるとは思うけど、そのどっちを受け入れるか決めるのは、ヒロ坊なんだから。

それに、ヒロ坊には、そういうことを自分で決められる人になって欲しいんだよね? ピカは」

「―――――!?」

ああ……どうしてイチコには、そういうことが分かってしまうんでしょう? 

私がいくら考えても出なかったその答えを出せるんでしょう? 

私は彼を自分に振り向かせるという結果を得ることに固執するあまり、それは本来彼自身が決めることだという根本的な部分を忘れていたのです。

そして私は気付いてしまいました。

そうですね。その最も大事な部分を見失ってた私にその答えが出せるはずはなかったですね。私がなって欲しいと思ってた一人前の男性というのは、当然自分のことを自分で決められる人のことでした。

私がその彼に選ばれるような女性でいられるかどうかは、それとはまた別に考えるべき話でした。彼に夢中になるあまり冷静さを失って醜態をさらすような女を彼が選んでくれるかどうかを考えるべきでした。

私が思う一人前の、一流の男性はそういう女は選ばないと思います。

彼を私の思う一流の男性に育て上げることに成功したら、小学生の女の子に突撃して、しかもその突撃した理由を問い質されて嘘で誤魔化すような今の私では、一流の男性になった彼には選んでもらえないでしょう。それでは意味がありません。

この時私は、父に言われた、

『自分を完璧だと思い込んでる人間は、実際は隙だらけなんだよ』

という言葉も思い出していました。

それは、自分は完璧、自分は間違えない、自分のすることに間違いがない、完璧なはずの自分が失敗をするはずがないと思い込んでる人間は、いざ失敗をすると自分がなぜ失敗したのかが理解できなくて立て直すことができなくなるということだと思いました。そしてそれは、まさに今の私のことだと思いました。

『そうか……! そういうことなんですね……!』

それに気付いた瞬間、私はなんだか自分で自分が可笑しく思えて、自然に笑ってしまっていたのでした。

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