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第六幕

単純に『楽しい』かな

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こうしてメイヴとエイスネはその後、数十年にわたって生活を共にし、吸血鬼としての生き方を教え、学んでいった。

吸血鬼であるがゆえに一つ所に長く住み続けることができないことも、エイスネは実感した。そして新しい場所に移り住むたびに名前も身元も変えた。

アイシャ。

フレデリカ。

サリシャ。

デボラ。

ネディカ。

メイヴと共に過ごした間、比較的長く名乗った名前だけでもこれだけある。しかし同時にエイスネは、自身の本来の名前を、何らかの形ですぐ身近に残し続けもした。

ある時は飼っている犬の名前であったり、猫の名前であったり、小鳥の名前であったり、自身が描いた絵画のタイトルであったりと、様々なそれで。

自分が<エイスネという名の人間>として家族と共に生きた事実を忘れないようにという想いだった。



「……以上が、大まかな経緯かな」

ここまで二時間、サンドラ(エイスネ)は自らの人生をイゴールに語ってくれた。メイヴとの信頼関係が出来上がって以降については、ヨーロッパ各地を転々としつつも、すごく穏やかで、聞く者によっては『退屈だ』と感じるかもしれない淡々としたものだったけど、イゴールは熱心に聞き入ってた。

彼にとってはそれこそこれから自分が歩んでいく道そのものだっただろうから、関心があったってことかもね。

そして語り終えたサンドラに対して、

「つらくなかったか……?」

正直な疑問としてそう問い掛けた。

けれどサンドラは、その問い掛けに対しては、

「そうね。メイヴと一緒に暮らしている間には、そんなにつらいと思ったことはなかったかな」

静かに微笑みながら返す。それが本音であることも伝わってくる。

彼女にとっては大切な時間だったということだろう。

さらにイゴールは、

「今は?」

とも改めて問い掛ける。けれどこれに対しても、

「今は、『つらくない』というよりは、単純に『楽しい』かな。それこそいろんなことを試して、いろんな生き方をして、たくさんの仲間とも出会って。

確かに別れはつらいけど、でもそれは一緒の時間を過ごせたからこそ感じられるものだからね。つらいだけじゃなく、私という存在そのものの証でもある。

人間とか吸血鬼とか関係なく、私はここで生きている。その事実が大事なんだ」

彼女はとても幸せそうに笑みを浮かべていた。

<エイスネ>と名付けたライブハウスを擁したテナントビルを所有・管理し、ディマ達のようなバンドが活動できる場を提供することが楽しいんだろうな。

サンドラは今、とても満たされてるんだよ。

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