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第六幕

互いに歩み寄れないからこそ怪物

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「吸血鬼が怪物であろうとするなら、当然、人間の方だって怪物として対処する必要が出てくるよね。そうなるとなお一層、平和な形でこの世界で一緒に生きるというのが難しくなる。ただの獣ならともかく、<怪物>というのは、互いに歩み寄れないからこそ怪物なんだしね。お互いに関わり合わないようにすることでなんとかなるのなら、それは怪物というより<そういう種>っていうことだから」

メイヴは丁寧にそう語ってくれる。これにはエイスネも真摯に耳を傾けてくれた。

何度も言うように言葉だけでは決して信頼は勝ち得ない。しかし同時に、信頼に値するか否かの判断をするためにも情報が必要なので、言葉として情報を提供することは決して無駄ではない。

現にあるはずだ。あったはずだ。

<あらかじめ言葉を尽くして丁寧に説明しておけば回避できた問題>

というものが。

こういうところでも人間は、

『言わなくても分かるはずだ』

『分かってくれているはずだ』

などと、楽天的に楽観的に<希望的観測>を頼りに横着をして話が拗れてしまったという事例が。それこそ日常的な個人の関係の範囲ですら。

自分とは関わり合いのない他者がそのような形で不幸に陥れば、まるでエンターテイメントのように嘲笑い愉悦するにも拘わらず、それを他山の石として自らに活かすことができない者も多いのが人間という生き物であろう。

これまた、

『目先の厄介事をその場で何とか凌げればそれでいい』

『場当たり的に取り繕うことができればそれでいい』

などと考えているからそのようなことができてしまうのではないのか。

もちろん吸血鬼も短期的にはそのような考えをしてしまうことがないわけではない。しかし寿命が長いからこそそのような場当たり的な対処では非常に長い期間、厄介事に煩わされることになる場合が多いので、なれば最初のうちに丁寧に手間を掛けて対処して早々に解決してしまった方が結果として楽であるという実感がとてもある。

ここで手を抜いて適当にいい加減な対処をしていては、エイスネそのものが<厄介事の種>となり、長々と煩わされ続けることにもなりかねない。

普通に考えればそれは、好ましくない、望むところではない、と考えられるのではないだろうか。

そう、

『可哀想な身の上の彼女に同情しているから優しくしている』

だけではないということだ。

あくまでもれっきとした合理的な打算の上に成立している対応なのである。

『目先の同情心で自分が気持ちよくなりたいから上辺だけの優しさを発揮する』

などということも、多くの問題を生み出してきているはずである。

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