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第六幕

手間を惜しむがゆえに

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自身にとって都合の良い状況だけを想定してことに当たっていたのでは、上手くいくはずもない。そんな子供が考えるようなものでは、何か一つ想定外のことが起こるだけですべてが破綻するだろう。

実際に人間がそれで破滅していく様子を吸血鬼は何度も見てきている。そのような実例を見ているにも拘わらず同じことをするというのは、<愚か>以外の何だというのか?

それを承知していればこそ、メイヴは穏やかにエイスネに接する。それ以外の対応をとる必要がないからだ。エイスネは、優しくしてくれたからといってつけあがるようなタイプではない。それはもう十分に分かっている。

彼女に対して必要なのはあくまでも手本を示すこと。どのように振る舞うことが大切なのかを身をもって提示すること。

むしろそれが重要であり、あとは言葉によって補足すれば済む。

もっとも、『それこそが手間だ』といえばそうなのだが。人間はその手間を惜しむがゆえに無駄に状況を拗らせる。

事実、人間社会においてはわずかな手間を惜しんだことで起こった事故や事件なども無数にあったはずである。だからその手間を惜しまない。たったそれだけの話でしかない。

メイヴは丁寧に語りかける。

「普段は乳で吸血衝動を抑えることは十分にできるけど、満月の時期だけは少し大変かもしれない。ちょうどもうすぐ満月になるから、その時に自分がどうなるのかを確かめておいてほしい」

その言葉にエイスネが、

「そんな……大丈夫なんですか……?」

『乳が血の代わりになる』と言われていたのにそれだったため、明らかに不安そうな表情になる。だからこそメイヴは、

「大丈夫。そのために私達がいる。これは個体差もあるから一概に『こうだ』と言えない。実際にどうなるかを確認する必要があるんだ」

と告げた。

さりとて、初めての経験となるエイスネを言葉だけで納得させることはできない。

翌日も、不安げな様子を見せるエイスネに、メイヴはただただ付き添ってくれた。

さらに翌日、

『やけに喉が渇く……』

そう感じてエイスネは何度も何度もヤギの乳を飲んだ。だからつい心配になって、

「あの……他の人もこうなるんですか? 足りなくなったりしませんか?」

メイヴに問いかけてしまう。しかしメイヴは平然と、

「大丈夫大丈夫。十分に確保してあるから。私たちもずっとこれを続けてるからね。どれだけの量が必要なのかは分かってる」

笑顔で応えてみせた。そしてそれは事実だった。事実なのだが、今のエイスネには分からない。分からないということをメイヴ達は分かっている。

分かっているから、不安を拭えないエイスネの様子にも苛立ったりはしない。彼女のためにきちんと乳を用意してくれる。

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