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第六幕
具体的な傾向を知るのは
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実はこの時、メイヴはドアの外で中の気配を探っていて、エイスネがどのような振る舞いをするかを感じ取ろうとしていた。
自分がまだ信頼されていないことを承知していたからだ。だから自分がいない時に彼女がどういう振る舞いをするか知っておく必要があった。無茶なことをするかもしれないがゆえに。その時には止めなければいけない。
すぐに無茶はしなくても、具体的な傾向を知るのは、サポートを行う上でも役に立つ。把握しておいて損はない。
しかしこれで、エイスネが理性的にものを考えることができるタイプであると改めて確認できた。
感情ばかりを優先したりその場の思い付きだけで衝動的な行動をするタイプはそれこそ監視の目を強める必要が出てくる。できればそのようなことはしたくないものの、あまりに影響が大きいとなれば、そうも言っていられない。
けれど、
「気分はどう?」
何事もなかったかのようにメイヴは問いかけた。実際に何事もなかったのだから、問題はない。
「うん、大丈夫」
エイスネも笑顔で返す。色々思うところはあるものの体調自体は問題ないことが自分でも確認できた。だから必ずしも嘘ではない。メイヴも詮索はしなかった。
『正直にすべてを話すわけではない』
というのは、<心を持つ生き物>であればむしろ自然な振る舞いであろう。『信頼していないから』などという場合だけに限らず、
『相手を慮ればこそオブラートに包んだ言い方をしてしまう』
こともあるはずだ。まあ、今回の場合は、
『エイスネの方がまだメイヴ達を完全には信頼できていないから』
というのが大きいが。
しかしそれも無理からぬことだ。エイスネとしても助けてもらえたことについては感謝もしている。それも嘘偽りない事実ではある。さりとて、
<自分の父親の肉を食べて生き延びたという過去>
を抱えてしまった上に、
『吸血鬼になってしまった』
などという現実を突き付けられてしまっては、素直にただただ感謝するということができなくても無理はないのではないだろうか。
ここで感情的になって、
『どうしてそんな余計なことをしたの!?』
的になじったりしてこないだけ感謝の気持ちの方が大きいというのを表しているのかもしれない。
メイヴは承知している。彼女自身がかつて同じような経験をしてきていることで。矛盾したいくつもの感情が自分の中で渦巻いて、それらを整理するのに大変な時間を費やしたというのも間違いなくあった。
そんな自分と同じ葛藤にエイスネが囚われていたとしても何も不思議はないだろう。
自分がまだ信頼されていないことを承知していたからだ。だから自分がいない時に彼女がどういう振る舞いをするか知っておく必要があった。無茶なことをするかもしれないがゆえに。その時には止めなければいけない。
すぐに無茶はしなくても、具体的な傾向を知るのは、サポートを行う上でも役に立つ。把握しておいて損はない。
しかしこれで、エイスネが理性的にものを考えることができるタイプであると改めて確認できた。
感情ばかりを優先したりその場の思い付きだけで衝動的な行動をするタイプはそれこそ監視の目を強める必要が出てくる。できればそのようなことはしたくないものの、あまりに影響が大きいとなれば、そうも言っていられない。
けれど、
「気分はどう?」
何事もなかったかのようにメイヴは問いかけた。実際に何事もなかったのだから、問題はない。
「うん、大丈夫」
エイスネも笑顔で返す。色々思うところはあるものの体調自体は問題ないことが自分でも確認できた。だから必ずしも嘘ではない。メイヴも詮索はしなかった。
『正直にすべてを話すわけではない』
というのは、<心を持つ生き物>であればむしろ自然な振る舞いであろう。『信頼していないから』などという場合だけに限らず、
『相手を慮ればこそオブラートに包んだ言い方をしてしまう』
こともあるはずだ。まあ、今回の場合は、
『エイスネの方がまだメイヴ達を完全には信頼できていないから』
というのが大きいが。
しかしそれも無理からぬことだ。エイスネとしても助けてもらえたことについては感謝もしている。それも嘘偽りない事実ではある。さりとて、
<自分の父親の肉を食べて生き延びたという過去>
を抱えてしまった上に、
『吸血鬼になってしまった』
などという現実を突き付けられてしまっては、素直にただただ感謝するということができなくても無理はないのではないだろうか。
ここで感情的になって、
『どうしてそんな余計なことをしたの!?』
的になじったりしてこないだけ感謝の気持ちの方が大きいというのを表しているのかもしれない。
メイヴは承知している。彼女自身がかつて同じような経験をしてきていることで。矛盾したいくつもの感情が自分の中で渦巻いて、それらを整理するのに大変な時間を費やしたというのも間違いなくあった。
そんな自分と同じ葛藤にエイスネが囚われていたとしても何も不思議はないだろう。
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