675 / 697
第六幕
美味しいです……!
しおりを挟む
メイヴに見守られ、エイスネは取り敢えず落ち着くことができていた。
加えて、
「ヤギの乳だけど、飲む?」
改めて勧められて、
「はい……!」
コップ一杯のヤギの乳を一気に飲み干す。
「美味しいです……!」
決して声は大きくないものの、控えめではあるものの、静かに興奮した様子でメイヴにそう告げる。
「動物の乳って、吸血鬼にとっては血の代用品になるんだよ。だから、血の代わりに乳ばっかり飲んでる吸血鬼もいるくらい。だから十分に用意してあるから、好きなだけ飲んだらいいよ。血を飲むのは少し抵抗があるとしても乳なら気にならないでしょ?」
メイヴに言われてエイスネもハッとなる。
「そうなんですか? じゃあ……!」
表情が確かに明るくなった。吸血鬼になって血を飲むしかなくなったのだとすれば大変な後ろめたさも感じるものの、乳を飲んでいればいいとなれば、そこまでのことでもない気もしてくる。しかも、シチューも美味しかった。
「普通の食事も食べられるんですね……驚きました」
素直な感想が口をつく。そんなエイスネに対してメイヴはニヤリと笑みを浮かべつつ、
「まあね。そうじゃなきゃこんな風に人間と協力し合って活動するというのもなかなかできないんじゃないかな。吸血についても理解してくれる人間はたまにいるけど、決して多くはないから。
だけど、普段は普通に食事をすればいいってことになったら、別に人間に危害を加える必要もない程度の吸血で済むってなったら、理解を示してくれる人間もずっと増えるよ。
私も元は人間だから、人間の感覚もまだ少しは分かるんだ。なるべく人間とは仲良く行きたいと思うしね」
語ってみせた。
もちろん、言葉だけでは完全に信頼を得ることはできない。言葉だけならいくらでも取り繕うことができる。それは他でもない人間こそが実感していることだ。これまでの歴史上でも人間は数え切れないほどの嘘で他者を欺き陥れ害をなしてきただろう。その事実は揺るがない。
だからこそ、言葉で説明した上で、行動でそれが真なるものであると示していくのだ。だから、時間もかかる。手間もかかる。なかなか信じてもらえないこともある。それを承知した上で努力を重ねる他にない。その努力なしに信頼など成立しない。
エイスネからの信頼を獲得することもままならない。
今は互いに手探りの状態なのだ。メイヴはそれなりに経験を重ねてはきているものの、エイスネはこれまでの相手とはまた<別の存在>なのだから。これまでの経験だけで完全に対処できるわけではない。エイスネにはエイスネに適した接し方をしなければいけない。それはこうやって実際に接することで探っていくしかない。
加えて、
「ヤギの乳だけど、飲む?」
改めて勧められて、
「はい……!」
コップ一杯のヤギの乳を一気に飲み干す。
「美味しいです……!」
決して声は大きくないものの、控えめではあるものの、静かに興奮した様子でメイヴにそう告げる。
「動物の乳って、吸血鬼にとっては血の代用品になるんだよ。だから、血の代わりに乳ばっかり飲んでる吸血鬼もいるくらい。だから十分に用意してあるから、好きなだけ飲んだらいいよ。血を飲むのは少し抵抗があるとしても乳なら気にならないでしょ?」
メイヴに言われてエイスネもハッとなる。
「そうなんですか? じゃあ……!」
表情が確かに明るくなった。吸血鬼になって血を飲むしかなくなったのだとすれば大変な後ろめたさも感じるものの、乳を飲んでいればいいとなれば、そこまでのことでもない気もしてくる。しかも、シチューも美味しかった。
「普通の食事も食べられるんですね……驚きました」
素直な感想が口をつく。そんなエイスネに対してメイヴはニヤリと笑みを浮かべつつ、
「まあね。そうじゃなきゃこんな風に人間と協力し合って活動するというのもなかなかできないんじゃないかな。吸血についても理解してくれる人間はたまにいるけど、決して多くはないから。
だけど、普段は普通に食事をすればいいってことになったら、別に人間に危害を加える必要もない程度の吸血で済むってなったら、理解を示してくれる人間もずっと増えるよ。
私も元は人間だから、人間の感覚もまだ少しは分かるんだ。なるべく人間とは仲良く行きたいと思うしね」
語ってみせた。
もちろん、言葉だけでは完全に信頼を得ることはできない。言葉だけならいくらでも取り繕うことができる。それは他でもない人間こそが実感していることだ。これまでの歴史上でも人間は数え切れないほどの嘘で他者を欺き陥れ害をなしてきただろう。その事実は揺るがない。
だからこそ、言葉で説明した上で、行動でそれが真なるものであると示していくのだ。だから、時間もかかる。手間もかかる。なかなか信じてもらえないこともある。それを承知した上で努力を重ねる他にない。その努力なしに信頼など成立しない。
エイスネからの信頼を獲得することもままならない。
今は互いに手探りの状態なのだ。メイヴはそれなりに経験を重ねてはきているものの、エイスネはこれまでの相手とはまた<別の存在>なのだから。これまでの経験だけで完全に対処できるわけではない。エイスネにはエイスネに適した接し方をしなければいけない。それはこうやって実際に接することで探っていくしかない。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。


サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる