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第六幕

手っ取り早く済ましてしてしまおうとは

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吸血鬼が人間の認識を変えてしまうことは、難しくない。魅了チャームを使えばそれこそ容易く変えてしまうことができる。

もちろん、<魅了チャームが効きにくい人間>というのはいたりするものの、それは決して大多数ではないし、その者の周囲の人間の意識をことごとく書き換えてしまえば、たとえ何を口走ろうとも、

『何をおかしなことを言ってるんだ?』

と思われるだけになってしまうという状況に追いやることは難しくない。そして実際にそういうことは何度もあった。

『あいつは頭がおかしくなった』

的に周囲から思われる形で孤立させられたという事例は事実ある。

吸血鬼同士では魅了チャームが効果を発揮することはほぼないが、まだ人間としての感覚を残している内であれば、多少、認識を誘導する程度のことはできなくもなかったりする。

そう、今のエイスネであればそのようにして諸々気にしないようにしてしまうことは、不可能ではないかもしれない。

けれど、メイヴはそれをしようとしなかった。それをするのは、<最後の手段>だと考えていた。エイスネが狂気に呑まれてしまうような状況にでも陥れば、躊躇なくそうするだろう。だが今はそうじゃない。そこまでじゃない。彼女が自身の過酷な経験を乗り越えていく段階を、

『面倒だ』

と考えて手っ取り早く済ましてしてしまおうとは考えていないのだ。

それは結局、単なる洗脳になってしまうからである。洗脳では、<本人の成長>は望めない。むしろ思考を抑制してしまうことから、

『<物事を深く考えることができない者>にしてしまう』

という大きなリスクがある。それでは駄目なのだ。

吸血鬼も人間も、

<途轍もなく膨大な思考を行える大きな脳>

を持っているのは、決して、

『洗脳されて表層的な思考しか行えない者になる』

ためではない。

それが<本来の姿>というわけではないはずだ。そんなものでいいのであれば、これほどの脳は必要ない。

吸血鬼の脳も人間の脳も、

『他の誰かに考えてもらってその指示にただ従って生きていく』

ためにあるのではないのだ。

ただ同時に、他者を欺き出し抜き詭弁を並べて、好き勝手に生きていくためにあるわけでもない。

特に人間の場合は、人間として人権という権利を法によって保障してもらった上で法を蔑ろにし、自分に都合よく法の解釈を捻じ曲げて責任逃れをする理屈を絞り出すためにあるわけでもない。

そのようなことをしていては、人間社会というものは成立しないのだ。

事実、そのようにして機能不全に陥っている社会もあるのだから。

法に縛られたくないのであれば野生動物に戻るべきであり、人間として生きたいのであれば、法を蔑ろにはしていられないのである。

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