ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第六幕

乳の味は血の味にとても近い

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「今日は僕達のためにお時間を割いてくださって本当にありがとうございます」

冒頭、僕はまずそう言って丁寧に頭を下げさせてもらった。その僕に続けて安和アンナが頭を下げて、少し遅れてイゴールも頭を下げてくれる。

そんな僕達を見てサンドラは、

「あはは、そこまで畏まる必要はないよ。私だって決して暇なわけじゃない。でも、だからこそ他に予定が入ってるのにこんな風に君達を優先することはしない。たまたま時間が空いていたから引き受けただけだ。

もちろんクラーラの紹介だからというのはあっても、他の重要な要件を蔑ろにしてはいないんだ。安心してほしい」

決して砕けた感じではないけれどフランクな印象は確かにある様子で彼女はそう言ってくれた。

なるほどそれは当然だと思う。だから僕も、

「ありがとうございます。そう言っていただけると気が楽になります」

とは言いつつ、リラックスしてみせた。すると安和も緊張を解くのが分かった。

だけどさすがにイゴールはまだそこまで上手くやれない。

肩に力が入って強ばった表情のまま、少々バランスの崩れた姿勢でソファーに座る。そして出された牛乳を口にして、一気に飲み干した。緊張の所為で喉が渇いていたんだろうな。

そんな彼の様子に、サンドラがふっと表情をほころばせる。そして、

「私も昔はそんなだったな」

と口にした。その上で、

「<ジャガイモ飢饉>と呼ばれる大変な災禍で家族を亡くしてエルビスのクランとして命を救われた私は、何もかもどう考えていいのか分からなくて、すべてに怯えていた。常に体を強張らせて、狼狽えて、身構えていたんだ。

それは、メイヴと一緒に暮らし始めてからも簡単には変わらなかった。

当然だよ。普通に生活環境が変わったどころか、<人間だった自分>が<人間じゃないもの>に変わってしまったわけだからね。これは赤ん坊として新しく生まれてくるのと変わらない途轍もない変化だ。

何もかも違ってしまったことに私は怯えて戸惑って、一時期まともに喋ることさえできなくなってしまった。

だけどそんな私をメイヴは受け止めてくれて、一から育ててくれたんだ。それこそ赤ん坊を育てるみたいにしてね」

そこまで語ったところでサンドラはイゴールのコップに再び牛乳を注いで、

「あの頃、私も牛乳ばかり飲んでいたよ。知っているかな? 哺乳動物の乳は、母親の血液が変化したものなんだ。だから乳の味は血の味にとても近い。

吸血鬼にとっては、それこそ血の代用品としてとても優秀なものなんだよ。だからどんどん飲んだらいい」

笑顔を向けた。

「は…はい……! いただきます!」

イゴールは改まった様子でそれをまた一気に飲み干した。そんな彼の様子に、

「その調子だ」

サンドラは目を細める。

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