ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第六幕

激しく猛々しい中にも調和が

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<ラーラ・カサンドラ>は、いわゆる<インストゥルメンタル・バンド>と呼ばれる、ボーカルがいないそれで、楽器による演奏だけとはいえ、ディマが全てを圧倒するかのようなギターを発揮して、ドートとカミラがそれに挑みかかるような形の迫力のあるものだった。

決して<仲良しこよし>のそれじゃないのは事実でありつつも、同時にただ喧嘩しているようなものでないのも事実だと思う。

激しく猛々しい中にも調和が感じられるんだ。

憤りや鬱屈したものを叩きつけるような演奏でいて、大切なものを守るために手を携えようとしている感じとも言えるかな。

それがもしかするとイゴールにも伝わっているのかもしれない。<歌>がないからはっきりとした言語化されたものとしてではなく、あくまでなんとなくの感覚なんだとしても、彼の目から溢れる涙は、それを表しているんだろうな。

「オレーナ……」

守れなかった大切な家族の名前を口にして。

とってはどんな言葉よりも歌詞よりも、心に突き刺さってきたみたいだね。

すると、僕達の傍にいたスタッフが、

「まったく、あいつら、リハで本気出しすぎだっての。んなことしてたら本番でバテちまうぜ。でも、それだけお前らに自分らの本気を見せたかったんだろうな。あいつらの演奏は、誰にでもウケるもんじゃねえかもしれねえけど、そっちのお兄ちゃんみたいに、刺さる奴には刺さるんだよ。

メジャーで儲けるバンドってのも確かにすげえんだろうけどよ。俺は、あいつらみたいなのも好きなんだ。ここに来なけりゃあいつらの演奏は聞けねえ。けど、あいつらの演奏を聴くためにここに足を運ぶ奴らも確かにいるんだぜ?

あいつらの演奏にはそれだけの価値がある。この<箱>は、ああいう奴らが集まるところなんだ。オーナーはそれを目指してくれたんだ。それで救われた奴が何人もいる。

ベースのカミラはよう、ガキの頃から親にクスリを打たれて客を取らされてたんだ。けど、ある時逃げ出してここの入り口んところに捨てられた猫みてえに丸まってたんだよ。それをオーナーが拾ってクスリをやめさせて、ディマと引き合わせた。それでディマがベースを教えて、今じゃいっぱしの弾き手になってる。

大したもんだろ?」

そのスタッフの言葉に嘘がないのは僕には分かる。そんなセンシティブな話を勝手にしていいのかどうかという問題はあるとしても、カミラもそれだけのものを抱えて、今、ここにいるんだということは分かった。

そういうすべてが込められた演奏なんだろうな。

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