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第六幕

だったら話は早い

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『その見た目じゃ無理か』

ディマがそう口にしたのは、イゴールはまだしも僕と安和アンナが<幼い子供>の見た目をしてるからだった。特に安和は四歳くらいの幼児にしか見えない。僕も十一歳くらいの外見だから、これもさすがに止められるだろう。イゴールは、アイルランドに入国する時のパスポートには、『十八歳』ということにしてあったから、それを提示さえすれば行けると思うけどね。

彼を十八歳としたのは、こうして僕や悠里ユーリや安和を連れて歩いても不審がられないようにするためだ。加えて、僕達は兄弟ということになってる。その方がより都合がいいし。

とは言え、ライブハウスに子供を連れては入れないね。

ただ、

「どこのライブハウス?」

僕が尋ねると、

「この先の<エイスネ>ってライブハウスだよ」

ディマが応えた。それに対して僕は、

「だったら大丈夫だと思う。僕達はそこのオーナーとこれから会うところだったんだ」

と告げる。これには彼女も、

「ああそうか、あんたらはサンドラの客か!」

嬉しそうに口にした。

「だったら話は早い! 客席からじゃなくても見られるよな。じゃあ、一緒に行こう!」

思いがけない出会いだけど、これはこれでむしろ楽しいと思う。友好的な相手なら大歓迎だ。

「お、おう!」

イゴールも、少し戸惑いながらも僕と安和に続いてディマの後について行った。

こうして少し怪しげな雰囲気の場所を五分ほど歩くと、いかにもなビルの地下に降りる階段のところに<Eithne>と看板が掛かっていた。今はサンドラと名乗っているというエイスネだけど、これまでに何度も名前を変えてきているということだけど、何らかの形で自分の本来の名前を残したいという気持ちもあるんだろうね。

「まだ営業時間前だけど、スタッフと関係者なら入れるから」

言ってディマはそのまま階段を下りて行った。当然、僕達もそれに続く。

独特の澱んだような空気感はあるけれど、たぶん、それ自体が<演出>なんだろうね。

その奥にあるドアも、<退廃的>と言うか<冒涜的>と言うかな印象のあるものではありつつ、そこからは強い攻撃性のようなものは匂ってこなかった。

確かに残り香のようなものの中には激しい怒りの感情を窺わせる匂いも混じってはいても、それはおそらくここに出入りしている人間の中に強い憤りを覚えているのがいるからだろうね。ただそれ自体、今すぐ何か対処しなければいけないような印象のじゃないと思う。

パンクロックというものは元々、強い憤りを基にして生じたものだとは聞いているけれど、ジャンルとして定着していくほどに本来の意味合いが薄れていくのは、<人の世の常>というものなんだろう。

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