上 下
636 / 697
第六幕

その後のことも

しおりを挟む
「……ということがあったんだよ」

ホテルの一室で寛ぎながら、セルゲイはイゴールに語って聞かせた。セルゲイ自身が経験し、見てきたこと耳にしてきたことを。

そう、<医師エルビス>は、当時のセルゲイが公的に名乗っていた名前であり身分である。医師としてアイルランドに渡り、仲間と共に救援活動を行っていたのがエルビスなのだ。

「それで、エイスネって子と、エドマンドはどうなったんだ……?」

イゴールとしては当然、その後のことも気になったのだろう。これに対してセルゲイは、

「エイスネは今でも、ここアイルランドで暮らしているよ。今は確か雑貨屋をやっていたはずだ。人間よりもずっとゆっくり歳を取るから今でもまだ三十代くらいにしか見えないけれど、長く一所ひとところにいられないからね。場所を転々と移しながらも小さな店などを始めて、それが軌道に乗ったところで売って、それで収入を得ている。今では立派な淑女だ」

と応え、さらに、

「一方、エドマンドは、先にも触れた<森の中で土に埋もれて生きている吸血鬼>となった。メアリーと共にね」

とも付け足す。

「マジか……」

まさかの結末に、イゴールが言葉を失う。エドマンドは話の流れ的に分からなくもないものの、メアリーも一緒とは。

「エドマンドとメアリーは、見た目こそ親子のようでありつつも、幼い頃は一緒の村で過ごした仲で、決して不仲だったわけじゃない。再開してお互いをより知ることで距離が縮まっていったんだろう。そしてエドマンドは人間と関わることを避けて森に入り、メアリーもそれについていった。メアリー自身、いろいろ思うところもあったようだ」

それを耳にして、今度は、

「じゃあ、メイヴは? ドロレスは?」

話の中で出てきた名前を口にする。

これに対してもセルゲイは淡々と、

「ドロレスは普通の人間だったからね。その後も看護師としてヨーロッパ中を転々として、九十歳でノルウェーで家族に看取られながら生涯を終えたと聞いている。そしてメイヴは……」

そこまで言ったところで、コンコンと部屋のドアがノックされた。食事のデリバリーサービスだった。

僕がドアを開けると、

「ご注文の品、お届けに上がりました」

と、女性のスタッフが丁寧に挨拶をしつつ、食事を載せたワゴンを押して部屋に入ってきた。それを見たセルゲイが、

「やあ、メイヴ、久しぶりだね」

手を上げながら声を掛けた。それに対して女性も、

「久しぶりね、エルビス…じゃなかった、今はセルゲイか」

笑顔を浮かべたんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

小児科医、姪を引き取ることになりました。

sao miyui
キャラ文芸
おひさまこどもクリニックで働く小児科医の深沢太陽はある日事故死してしまった妹夫婦の小学1年生の娘日菜を引き取る事になった。 慣れない子育てだけど必死に向き合う太陽となかなか心を開こうとしない日菜の毎日の奮闘を描いたハートフルストーリー。

隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました

ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら…… という、とんでもないお話を書きました。 ぜひ読んでください。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

社長の奴隷

星野しずく
恋愛
セクシー系の商品を販売するネットショップを経営する若手イケメン社長、茂手木寛成のもとで、大のイケメン好き藤巻美緒は仕事と称して、毎日エッチな人体実験をされていた。そんな二人だけの空間にある日、こちらもイケメン大学生である信楽誠之助がアルバイトとして入社する。ただでさえ異常な空間だった社内は、信楽が入ったことでさらに混乱を極めていくことに・・・。(途中、ごくごく軽いBL要素が入ります。念のため)

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...