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第六幕

現実の寄る辺

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一方、エイスネは、寝ながらポロポロと涙をこぼしていた、さらに、

「ママぁ……パパぁ……」

とうなされている。

「エイスネ……」

メイヴはそんなエイスネをただ撫でるしかできなかった。すると、悪夢の中でエイスネは誰かに支えられている気がして頭を起こす。そこには、誰か分からない人影。男性のようにも見えるし、女性のようにも見える。それに縋るように手を伸ばすと、さあっと意識が浮上していく。

覚醒だ。

「……あ……」

ハッと目を開けたエイスネを覗き込む優しい瞳。

「おはよう……おかえり……」

夢の中で長い長い懊悩を繰り返していたであろうことを承知していたメイヴが敢えて『おかえり』と口にすると、

「ただいま……」

エイスネもつられてそう応えた。応えた上で、顔をくしゃくしゃっと歪ませて、

「あ……うあ……あああああ……」

再び嗚咽を漏らし始める。これが現実であると改めて思い知ったのだ。母親も父親も死に、そして自分は死んだ父親の肉を食べて生き延びてしまったのだということを。

「いいよ…泣いていい……たくさんたくさん泣いていいから……」

エイスネの体をそっと包み込むように抱き締めながらメイヴは口にする。そうとしか言いようがないことを彼女は知っていた。他にどんな慰めの言葉も今のエイスネには届かないことを。

そしてこれが最後のきっかけだった。エイスネの精神が今の自らの状況を受け止めるための。

二日間にわたって眠り続けて自身の記憶の旅を続け、両親の死を何度も何度も追体験し、折り合いを付けるように努めてきた。もちろん意図してではなく、エイスネ自身の生存本能のなせる業だろうが。自らを生かすために、どうすればこれからも生きていけるのかを無意識のうちに模索してきたのだろう。

このつらい世界を。

そこに、メイヴが迎えてくれた。受け止めてくれた。だから今はそれに縋るしかなかった。現実の寄る辺がそこだった。

メイヴもそれを分かっている。分かっているからただ受け止める。今の時点ではあれこれ言ってもこの少女には届かないことを知っている。

そしてエイスネの泣き声は、赤ん坊の産声と同じだった。泣いて泣いて空気を取り込み、生きるための呼吸を行うのと同じものだ。泣くことが生きるために必要なことなのだ。

エイスネとエドマンドは、それぞれ、違う形ではあるものの、自らがこれからも生きていくための足掛かりを得ようとしていた。

つらくても苦しくても自分は生きるしかないことを知っているがゆえに。

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