635 / 697
第六幕
現実の寄る辺
しおりを挟む
一方、エイスネは、寝ながらポロポロと涙をこぼしていた、さらに、
「ママぁ……パパぁ……」
とうなされている。
「エイスネ……」
メイヴはそんなエイスネをただ撫でるしかできなかった。すると、悪夢の中でエイスネは誰かに支えられている気がして頭を起こす。そこには、誰か分からない人影。男性のようにも見えるし、女性のようにも見える。それに縋るように手を伸ばすと、さあっと意識が浮上していく。
覚醒だ。
「……あ……」
ハッと目を開けたエイスネを覗き込む優しい瞳。
「おはよう……おかえり……」
夢の中で長い長い懊悩を繰り返していたであろうことを承知していたメイヴが敢えて『おかえり』と口にすると、
「ただいま……」
エイスネもつられてそう応えた。応えた上で、顔をくしゃくしゃっと歪ませて、
「あ……うあ……あああああ……」
再び嗚咽を漏らし始める。これが現実であると改めて思い知ったのだ。母親も父親も死に、そして自分は死んだ父親の肉を食べて生き延びてしまったのだということを。
「いいよ…泣いていい……たくさんたくさん泣いていいから……」
エイスネの体をそっと包み込むように抱き締めながらメイヴは口にする。そうとしか言いようがないことを彼女は知っていた。他にどんな慰めの言葉も今のエイスネには届かないことを。
そしてこれが最後のきっかけだった。エイスネの精神が今の自らの状況を受け止めるための。
二日間にわたって眠り続けて自身の記憶の旅を続け、両親の死を何度も何度も追体験し、折り合いを付けるように努めてきた。もちろん意図してではなく、エイスネ自身の生存本能のなせる業だろうが。自らを生かすために、どうすればこれからも生きていけるのかを無意識のうちに模索してきたのだろう。
このつらい世界を。
そこに、メイヴが迎えてくれた。受け止めてくれた。だから今はそれに縋るしかなかった。現実の寄る辺がそこだった。
メイヴもそれを分かっている。分かっているからただ受け止める。今の時点ではあれこれ言ってもこの少女には届かないことを知っている。
そしてエイスネの泣き声は、赤ん坊の産声と同じだった。泣いて泣いて空気を取り込み、生きるための呼吸を行うのと同じものだ。泣くことが生きるために必要なことなのだ。
エイスネとエドマンドは、それぞれ、違う形ではあるものの、自らがこれからも生きていくための足掛かりを得ようとしていた。
つらくても苦しくても自分は生きるしかないことを知っているがゆえに。
「ママぁ……パパぁ……」
とうなされている。
「エイスネ……」
メイヴはそんなエイスネをただ撫でるしかできなかった。すると、悪夢の中でエイスネは誰かに支えられている気がして頭を起こす。そこには、誰か分からない人影。男性のようにも見えるし、女性のようにも見える。それに縋るように手を伸ばすと、さあっと意識が浮上していく。
覚醒だ。
「……あ……」
ハッと目を開けたエイスネを覗き込む優しい瞳。
「おはよう……おかえり……」
夢の中で長い長い懊悩を繰り返していたであろうことを承知していたメイヴが敢えて『おかえり』と口にすると、
「ただいま……」
エイスネもつられてそう応えた。応えた上で、顔をくしゃくしゃっと歪ませて、
「あ……うあ……あああああ……」
再び嗚咽を漏らし始める。これが現実であると改めて思い知ったのだ。母親も父親も死に、そして自分は死んだ父親の肉を食べて生き延びてしまったのだということを。
「いいよ…泣いていい……たくさんたくさん泣いていいから……」
エイスネの体をそっと包み込むように抱き締めながらメイヴは口にする。そうとしか言いようがないことを彼女は知っていた。他にどんな慰めの言葉も今のエイスネには届かないことを。
そしてこれが最後のきっかけだった。エイスネの精神が今の自らの状況を受け止めるための。
二日間にわたって眠り続けて自身の記憶の旅を続け、両親の死を何度も何度も追体験し、折り合いを付けるように努めてきた。もちろん意図してではなく、エイスネ自身の生存本能のなせる業だろうが。自らを生かすために、どうすればこれからも生きていけるのかを無意識のうちに模索してきたのだろう。
このつらい世界を。
そこに、メイヴが迎えてくれた。受け止めてくれた。だから今はそれに縋るしかなかった。現実の寄る辺がそこだった。
メイヴもそれを分かっている。分かっているからただ受け止める。今の時点ではあれこれ言ってもこの少女には届かないことを知っている。
そしてエイスネの泣き声は、赤ん坊の産声と同じだった。泣いて泣いて空気を取り込み、生きるための呼吸を行うのと同じものだ。泣くことが生きるために必要なことなのだ。
エイスネとエドマンドは、それぞれ、違う形ではあるものの、自らがこれからも生きていくための足掛かりを得ようとしていた。
つらくても苦しくても自分は生きるしかないことを知っているがゆえに。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる