634 / 697
第六幕
それもいいかもな……
しおりを挟む
「森の土に埋もれるって、それでどうやって食事なんかできるってんだ?」
さすがにエドマンドにはメアリーの言っていることが理解できなかったようだ。言葉としてはもちろん分かる。分かるが、意味が頭に入ってこない。
するとメアリーは改めて、
「それを言ったら人間の血を一口飲んだだけで活力を得られるってのもおかしいでしょうが。詳しい理屈はまだよく分かってないけど、『そういうもの』なんだよ。ヴァンパイアっていうのは。土に埋もれてると、とにかく土地のエネルギーが吸収できんの」
きっぱりと言い切った。彼女の言うとおり、原理も道理も判明はしていないものの経験則として『そういうもの』であることだけは分かっている。なので現状ではそうとしか説明できないのだ。
「お……おう、そうか……」
これにはエドマンドもそう応えるしかなかった。応えるしかなかったが、取り敢えずそういうことなんだと自分に言い聞かせる。
と同時に、
『森の土に埋もれてるだけでいいのか……』
そんなことを思う。それがとても気になった。
『なんも考えずに土に埋もれてるだけで生きてられんなら、木や草みたいに生きられんなら、それも悪くないかもな……』
とも。
『人間の世界なんて、つらいことばっかりじゃねーか……俺達みたいなのは死ぬまで貴族共にいいようにされるだけだしな……』
などということも考えてしまう。その点、木や草は面倒なことを考えなくても生きていられるのが羨ましかった。子供の頃にすでにそんなことを思ってしまっていたことを思い出す。
日が昇ると同時に起きて仕事を始め、日が暮れて疲れ切って、粗末な食事をして泥のように眠る。自分の両親もそうやって生きていた。そして自分もそうやって生きている。働いて働いて働いて、なのに今回の飢饉だ。何もいいことがなかった。
幼馴染と結婚したのも、多少悪からず思っていた相手が近くにいたというだけで、強くそれを望んだわけでもない。淡い気持ちを寄せていたメアリーは貴族に金に買われて自分の前からいなくなった。
子供を迎えられたのは嬉しかったが、その息子二人も死んだ。それどころか、その死肉を食って自分は生き延びた。
思いがけずメアリーとは再会できたものの彼女はヴァンパイアになっていて、自分も同じくヴァンパイアになった。人間ではなくなってしまった。ならもう、人間のような生き方などする必要もなくなったのではないのか?
木や草のように生きられるというのなら、
『それもいいかもな……』
改めて思ったのだった。
さすがにエドマンドにはメアリーの言っていることが理解できなかったようだ。言葉としてはもちろん分かる。分かるが、意味が頭に入ってこない。
するとメアリーは改めて、
「それを言ったら人間の血を一口飲んだだけで活力を得られるってのもおかしいでしょうが。詳しい理屈はまだよく分かってないけど、『そういうもの』なんだよ。ヴァンパイアっていうのは。土に埋もれてると、とにかく土地のエネルギーが吸収できんの」
きっぱりと言い切った。彼女の言うとおり、原理も道理も判明はしていないものの経験則として『そういうもの』であることだけは分かっている。なので現状ではそうとしか説明できないのだ。
「お……おう、そうか……」
これにはエドマンドもそう応えるしかなかった。応えるしかなかったが、取り敢えずそういうことなんだと自分に言い聞かせる。
と同時に、
『森の土に埋もれてるだけでいいのか……』
そんなことを思う。それがとても気になった。
『なんも考えずに土に埋もれてるだけで生きてられんなら、木や草みたいに生きられんなら、それも悪くないかもな……』
とも。
『人間の世界なんて、つらいことばっかりじゃねーか……俺達みたいなのは死ぬまで貴族共にいいようにされるだけだしな……』
などということも考えてしまう。その点、木や草は面倒なことを考えなくても生きていられるのが羨ましかった。子供の頃にすでにそんなことを思ってしまっていたことを思い出す。
日が昇ると同時に起きて仕事を始め、日が暮れて疲れ切って、粗末な食事をして泥のように眠る。自分の両親もそうやって生きていた。そして自分もそうやって生きている。働いて働いて働いて、なのに今回の飢饉だ。何もいいことがなかった。
幼馴染と結婚したのも、多少悪からず思っていた相手が近くにいたというだけで、強くそれを望んだわけでもない。淡い気持ちを寄せていたメアリーは貴族に金に買われて自分の前からいなくなった。
子供を迎えられたのは嬉しかったが、その息子二人も死んだ。それどころか、その死肉を食って自分は生き延びた。
思いがけずメアリーとは再会できたものの彼女はヴァンパイアになっていて、自分も同じくヴァンパイアになった。人間ではなくなってしまった。ならもう、人間のような生き方などする必要もなくなったのではないのか?
木や草のように生きられるというのなら、
『それもいいかもな……』
改めて思ったのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる