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第六幕

どれほどシンプルに考えようとしても

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どれほどシンプルに考えようとしても、どれほど単純に思考しようとしても、人間の心理というものはそんな簡単なものではない。だからこそ人間は様々なことで思い悩むはずなのだ。

なるほど確かに単純に考えれば大した問題ではない場合も少なくないだろう。考えすぎているからこそ問題が拗れてしまっている事例も多いのはまぎれもない事実のはずである。

しかし、

『良いことは良い』

『悪いことは悪い』

だけで割り切れるのであれば大きな問題にはなっていなかった歴史的事件も数多くあったのではないだろうか?

特に、双方共に『正しいことをしている』『良いことをしている』と考えて衝突しているようなものについては。

戦争の多くがそういうものであろうし、いわゆる<虐殺>と呼ばれるような一方的な殺戮であっても、それを実行している者達に悪意はなかったというものもあったかもしれない。

だからこそ、自身の境遇と向き合う方法も一つではないのだ。



こうしてエドマンドが保護されたその頃、エイスネは眠りについていた。部屋を割り振られ腰を落ち着け、メイヴに添い寝してもらって床に就いてから丸二日間、眠り続けていた。

肉体的には大きな問題はなかった。エルビスのクランとしてヴァンパイアになったことで、人間では決して得られないほどの超常の力を有したからである。

しかしその一方で、精神の方は肉体ほどは急激に変化できなかったというのもある。精神はあくまで肉体の在り方に影響を受ける形でそれに則したものへと変化していくからだ。

例えば、まったく痛みを感じない体に突然変化してしまったとする。だが、肉体は痛みを感じていなくても、精神の方は、

『痛みを感じる肉体であった頃に育まれた状態のそれを覚えている』

がゆえに、しばらくは、

『こうすれば痛かった』

という記憶を基に活動できるだろう。けれど、時間が経つにつれて<痛みを感じない肉体>に慣れ、

<痛みを感じないことが普通>

になっていくことで、当然、それに則した精神活動をするようになっていくはずである。

そしてやがて、<痛み>というものを理解できない精神性が構築されていくことになる場合が多いだろう。

だから、いかにヴァンパイアの超常の能力を有した肉体を得ても、それに則した精神性を得るには時間が掛かるというのも事実なのだ。

エイスネが眠り続けているのは、彼女の脳が、彼女のキャパシティを超えてしまった様々なあれこれを整理することに集中するために肉体の方の活動を制限しているのだろうと思われる。

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