ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第六幕

おおむね正解

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こうして、エイスネと同じようにして死んだ肉親を食べて生き延び、そしてエルビスの<クラン>となったエドマンドが、やはり<V>、つまり<ヴァンパイア>のために用意された仮住まいへとやってきた。

そう、エイスネもヴァンパイアとなっていたのだ。

そしてエイスネの担当者であるメイヴもやはり、ヴァンパイアであった。

すると、エドマンドに割り当てられた部屋に彼と共に入ったメアリーが、

「ここはね、あなたと同じ<クラン>としてヴァンパイアになった者達のための仮住まい。まあ、ここに出入りしてる半分はヴァンパイアだと思ってていい。残りの半分は普通の人間だけど、ちゃんとヴァンパイアってものを理解してるから、心配要らない」

と告げた。

「そうなんだ……?」

エドマンドは呟くように応えたものの、本音ではあまり関心はなかったようだ。最初は驚いたとはいえ、メアリーやエルビスといったヴァンパイアに触れたことで、おとぎ話に出てくるような怪物ではないことが実感できたからだろう。それよりは、

「カレン……ローナン……ハリー……」

家族の名を口にし、また、

「う……っ!」

込み上げてくるものがあったのか、彼は手で口を押さえた。だが今度は嘔吐にまでは至らなかった。

「……」

そんな彼の様子に、メアリーも敢えて言葉を掛けるでもなくただ寄り添った。

「今はまあ、そうやって気が済むまで落ち込んでればいい……『忘れろ』とか『気にするな』とかは、私達は言わない。ヴァンパイアには時間がある。人間よりずっと長い時間がね……」

そう口にした上で、

「私もさ、自分がヴァンパイアになってしまったことが受け入れられなくて、一年くらい部屋に閉じこもってたりもしたんだ……」

とも語った。

「……」

エドマンドはそんな彼女の言葉を、口を手で抑えたまま項垂れて聞いていた。それしかできなかった。波のように気分が上下し、現実感が失われる。覚めない悪夢を見続けているような酷い気分でもあった。

なのに同時に、これが現実であることもなぜか分かってしまうのだ。いっそ狂ってしまえば楽になれるような気もするものの、半ば狂ってしまっているかのような気もするものの、なぜかそうではないのも分かる。

途轍もなく不可解な感覚。

『これが、ヴァンパイアってもんなのか……?』

とも思うものの、何か違うような気もする。もしかすると自分はまだ人間の感覚が残っていて、それがヴァンパイアのそれに変わっていこうとしている途中だからこのような気分になってしまうのかとも思った。

そしてそれはおおむね正解であった。

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