624 / 697
第六幕
彼女の憎悪が本物であると
しおりを挟む
『許すつもりなんかないんだよ』
ベール越しでも、明らかに憎悪を滾らせた表情でメアリーが吐き捨てるように言ったのが分かった。それだけでなく、ビリビリと痺れるような感覚がエドマンドにも感じ取れた。彼女の憎悪が本物であると、直感として察せられてしまう。これもヴァンパイアになったからだろうか。
「復讐、したいのか……?」
恐る恐る問い掛けるエドマンドに、メアリーは、
「まあね。できることなら私のこの手で殺してやりたいよ。あいつに血を吸われるのを『気持ちいい』と思ってしまった自分も嫌。汚いと思う。私はもう昔の私じゃないんだ……」
自分の体を抱きしめるようにしながら、絞り出すように口にした。
彼女にとってはそれほどのことであるというのが伝わってくる。まるで純潔を奪われたかのような感覚があるのだろう。だからエドマンドはつい、
「でも、お前はお前なんだろう? お前じゃないものになっちまったわけじゃないんだろう? たとえヴァンパイアになってもよ……」
そんな風に声を掛けてしまった。しかしこれに対しては、
「はあ? あなた、さっきは『お前はメアリーじゃない』みたいなこと言ってたじゃないのさ?」
実に辛辣な返答を。
「あ! いや、あれは、その……!」
エドマンドは痛いところを突かれて狼狽える。それでいて、ハッと思い立ち、
「あれは、俺が本当のお前の姿を知らなかったから……! 俺が勝手に思ってたお前の姿をあてはめてたから……! それと、お前がお前のままかどうかってのは、別の話だろ!?」
と付け足した。不思議と頭の中が冴えていて、そう考えられてしまったのだ。するとメアリーも、
「はいはい、そういうことにしといてあげる」
呆れたように肩を竦めて言い放った。それから苦笑いを浮かべて彼を見る。その視線にいたたまれない様子ながらもエドマンドも、
「悪い……俺がガキだった。なんも分かってないガキだったってのは確かだよ。でもよ、メアリー、俺はお前が生きててくれてよかったと思ってる。それは嘘じゃねえ……嘘じゃねえんだ……」
そう口にした。彼が嘘を言ってるのでないことは、メアリーにも察せられた。無学で気の利いた言い方はできないかもしれないが、本心であることだけは確かなのだ。
だから、
「まあ、それについてはありがと……私も、あなたが生きててくれてよかったと思う……」
憮然とした表情ながらもそう返す。そしてその言葉が嘘でないことが、なぜかエドマンドにも察せられてしまったのだった。
ベール越しでも、明らかに憎悪を滾らせた表情でメアリーが吐き捨てるように言ったのが分かった。それだけでなく、ビリビリと痺れるような感覚がエドマンドにも感じ取れた。彼女の憎悪が本物であると、直感として察せられてしまう。これもヴァンパイアになったからだろうか。
「復讐、したいのか……?」
恐る恐る問い掛けるエドマンドに、メアリーは、
「まあね。できることなら私のこの手で殺してやりたいよ。あいつに血を吸われるのを『気持ちいい』と思ってしまった自分も嫌。汚いと思う。私はもう昔の私じゃないんだ……」
自分の体を抱きしめるようにしながら、絞り出すように口にした。
彼女にとってはそれほどのことであるというのが伝わってくる。まるで純潔を奪われたかのような感覚があるのだろう。だからエドマンドはつい、
「でも、お前はお前なんだろう? お前じゃないものになっちまったわけじゃないんだろう? たとえヴァンパイアになってもよ……」
そんな風に声を掛けてしまった。しかしこれに対しては、
「はあ? あなた、さっきは『お前はメアリーじゃない』みたいなこと言ってたじゃないのさ?」
実に辛辣な返答を。
「あ! いや、あれは、その……!」
エドマンドは痛いところを突かれて狼狽える。それでいて、ハッと思い立ち、
「あれは、俺が本当のお前の姿を知らなかったから……! 俺が勝手に思ってたお前の姿をあてはめてたから……! それと、お前がお前のままかどうかってのは、別の話だろ!?」
と付け足した。不思議と頭の中が冴えていて、そう考えられてしまったのだ。するとメアリーも、
「はいはい、そういうことにしといてあげる」
呆れたように肩を竦めて言い放った。それから苦笑いを浮かべて彼を見る。その視線にいたたまれない様子ながらもエドマンドも、
「悪い……俺がガキだった。なんも分かってないガキだったってのは確かだよ。でもよ、メアリー、俺はお前が生きててくれてよかったと思ってる。それは嘘じゃねえ……嘘じゃねえんだ……」
そう口にした。彼が嘘を言ってるのでないことは、メアリーにも察せられた。無学で気の利いた言い方はできないかもしれないが、本心であることだけは確かなのだ。
だから、
「まあ、それについてはありがと……私も、あなたが生きててくれてよかったと思う……」
憮然とした表情ながらもそう返す。そしてその言葉が嘘でないことが、なぜかエドマンドにも察せられてしまったのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
貸本屋七本三八の譚めぐり
茶柱まちこ
キャラ文芸
【書籍化しました】
【第4回キャラ文芸大賞 奨励賞受賞】
舞台は東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)。
産業、医療、文化の発展により『本』の進化が叫ばれ、『術本』が急激に発展していく一方で、
人の想い、思想、経験、空想を核とした『譚本』は人々の手から離れつつあった、激動の大昌時代。
『譚本』専門の貸本屋・七本屋を営む、無類の本好き店主・七本三八(ななもとみや)が、本に見いられた人々の『譚』を読み解いていく、幻想ミステリー。
皇太后(おかあ)様におまかせ!〜皇帝陛下の純愛探し〜
菰野るり
キャラ文芸
皇帝陛下はお年頃。
まわりは縁談を持ってくるが、どんな美人にもなびかない。
なんでも、3年前に一度だけ出逢った忘れられない女性がいるのだとか。手がかりはなし。そんな中、皇太后は自ら街に出て息子の嫁探しをすることに!
この物語の皇太后の名は雲泪(ユンレイ)、皇帝の名は堯舜(ヤオシュン)です。つまり【後宮物語〜身代わり宮女は皇帝陛下に溺愛されます⁉︎〜】の続編です。しかし、こちらから読んでも楽しめます‼︎どちらから読んでも違う感覚で楽しめる⁉︎こちらはポジティブなラブコメです。
ぐるりぐるりと
安田 景壹
キャラ文芸
あの日、親友と幽霊を見た。それが、全ての始まりだった。
高校二年生の穂結煌津は失意を抱えたまま、友の故郷である宮瑠璃市に越して来た。
煌津は宮瑠璃駅前に遺棄された捩じれた死体を目にした事で、邪悪な感情に囚われる。心が暴走するまま悪を為そうとした煌津の前に銀髪の少女が現れ、彼を邪気から解放する。
だが、この日から煌津は、宮瑠璃市に蠢く邪悪な霊との戦いに巻き込まれていく――……
龍神のつがい~京都嵐山 現世の恋奇譚~
河野美姫
キャラ文芸
天涯孤独の凜花は、職場でのいじめに悩みながらも耐え抜いていた。
しかし、ある日、大切にしていた両親との写真をボロボロにされてしまい、なにもかもが嫌になって逃げ出すように京都の嵐山に行く。
そこで聖と名乗る男性に出会う。彼は、すべての龍を統べる龍神で、凜花のことを「俺のつがいだ」と告げる。
凜花は聖が住む天界に行くことになり、龍にとって唯一無二の存在とされる〝つがい〟になることを求められるが――?
「誰かに必要とされたい……」
天涯孤独の少女
倉本凜花(20)
×
龍王院聖(年齢不詳)
すべての龍を統べる者
「ようやく会えた、俺の唯一無二のつがい」
「俺と永遠の契りを交わそう」
あなたが私を求めてくれるのは、
亡くなった恋人の魂の生まれ変わりだから――?
*アルファポリス*
2022/12/28~2023/1/28
※こちらの作品はノベマ!(完結済)・エブリスタでも公開中です。
勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス
R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。
そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。
最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。
そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。
※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※
後宮の隠れ薬師は、ため息をつく~花果根茎に毒は有り~
絹乃
キャラ文芸
陸翠鈴(ルーツイリン)は年をごまかして、後宮の宮女となった。姉の仇を討つためだ。薬師なので薬草と毒の知識はある。だが翠鈴が後宮に潜りこんだことがばれては、仇が討てなくなる。翠鈴は目立たぬように司燈(しとう)の仕事をこなしていた。ある日、桃莉(タオリィ)公主に毒が盛られた。幼い公主を救うため、翠鈴は薬師として動く。力を貸してくれるのは、美貌の宦官である松光柳(ソンクアンリュウ)。翠鈴は苦しむ桃莉公主を助け、犯人を見つけ出す。※表紙はminatoさまのフリー素材をお借りしています。※中国の複数の王朝を参考にしているので、制度などはオリジナル設定となります。
※第7回キャラ文芸大賞、後宮賞を受賞しました。ありがとうございます。
あるじさま、おしごとです。
川乃千鶴
キャラ文芸
ショウスケは街に唯一の「代書屋」、コトノハ堂の一人息子。彼の妻の座を狙う世話係のキョウコは、なかなか手を出してくれない主人にヤキモキしているが……二人の間には十の歳の差と、越えられない壁があって──?
これはどこか古い時代の日の本に似た街に住む、ちょっと変わったカップル(?)が、穏やかな日々をひっくり返す悲しい事件を乗り越え、心を通じ合わせるまでのお話。
※中盤ちょっとサスペンスです
※後日譚含む番外編まで執筆済。近日中に公開できたらと考えています
※各話最後の閑話は若干お下品なネタです。飛ばしても問題ありません
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる