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第六幕
まるで熱湯のように
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それからも明け方までエルビスは周囲の村々を回り、結局、二十人ほどの生存者を診療所まで連れ帰ってきた。
<エドマンド>も、そうしてエルビスに救われた者の一人だった。
エドマンドは、本人も正確な年齢までは知らないが、少なくとも四十代の男性だった。妻と息子二人と共にジャガイモ畑を耕し、貧しいながらも真面目に生きてきた。
なのに去年、今回の疫病菌によって彼の畑のジャガイモはほぼ全滅。かろうじて収穫できた分も、輸出のために取り上げられ、彼の家族はそれこそ雑草を煮て食った。そして今年も同じくジャガイモはほぼ全滅。
「このジャガイモまで取り上げられたら、来年の種イモがなくなっちまう!」
翌年の作付けのために必要な種イモまで取り上げられ、さらには食べられないわけでもない雑草まで食べ尽くし、妻は衰弱死、息子二人も次々と飢えて死んだ。
追い詰められた彼は、死んだ息子の肉を鍋で煮て食べて、かろうじて生き延びたのだった。
けれど……
「妻も死んだ……それどころか私は息子を食ってしまった……私は悪魔に憑かれたんだ……生きていてはいけない……死なせてくれ……」
エルビスがくれた<命の水>により正気を取り戻したことで自身の行いを自覚できてしまい、彼はそう懇願した。息子を食ってしまった時にはもはや正常な判断力が失われていたのだろう。ただただ生存本能により獣のようにして生き延びるだけにその時点で使えるリソースを費やしたのだと思われる。
なのにエルビスは、
「あなたが死んでも、妻も息子も帰ってはこない。死ねなかった今のあなたにできることは、妻や息子達の分まで生きることだ……それこそが贖罪になる」
と告げた。
それに対してエドマンドは、
「無理だ……! 私にはもう無理だ……生きてなどいられない……頼む、死なせてくれ……お願いだ……」
やはりそう懇願した。しかも、エルビスが他の生存者を探している間に、刃物で自分の喉を切りつけ、自殺を図ったりさえした。
しかし、彼は死ななかった。確かに自分の首を刃物で切り裂いたはずなのに、その傷がない。
「なんだ……? どういうことだ……?」
彼は困惑した。切り付けたと思ったのは気のせいだったのか……?
そう思い、再び切り付けた。
「今度こそ……死ねる……メアリ…ジョー…リック……父さんも今から行くからな……」
やや芝居がかったそんな呟きと共に彼の喉からあふれ出す血は、まるで熱湯のように熱ささえ感じられたが、それが確かな死をもたらしてくれるという実感も彼に与えてくれたのだった。
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エドマンドは、本人も正確な年齢までは知らないが、少なくとも四十代の男性だった。妻と息子二人と共にジャガイモ畑を耕し、貧しいながらも真面目に生きてきた。
なのに去年、今回の疫病菌によって彼の畑のジャガイモはほぼ全滅。かろうじて収穫できた分も、輸出のために取り上げられ、彼の家族はそれこそ雑草を煮て食った。そして今年も同じくジャガイモはほぼ全滅。
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けれど……
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エルビスがくれた<命の水>により正気を取り戻したことで自身の行いを自覚できてしまい、彼はそう懇願した。息子を食ってしまった時にはもはや正常な判断力が失われていたのだろう。ただただ生存本能により獣のようにして生き延びるだけにその時点で使えるリソースを費やしたのだと思われる。
なのにエルビスは、
「あなたが死んでも、妻も息子も帰ってはこない。死ねなかった今のあなたにできることは、妻や息子達の分まで生きることだ……それこそが贖罪になる」
と告げた。
それに対してエドマンドは、
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やはりそう懇願した。しかも、エルビスが他の生存者を探している間に、刃物で自分の喉を切りつけ、自殺を図ったりさえした。
しかし、彼は死ななかった。確かに自分の首を刃物で切り裂いたはずなのに、その傷がない。
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「今度こそ……死ねる……メアリ…ジョー…リック……父さんも今から行くからな……」
やや芝居がかったそんな呟きと共に彼の喉からあふれ出す血は、まるで熱湯のように熱ささえ感じられたが、それが確かな死をもたらしてくれるという実感も彼に与えてくれたのだった。
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