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第六幕
命の水
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この時、エルビスが男性に飲ませた水は、ただの水ではなかった。エイスネも口にした、<具のない透明なスープ>と同じものだった。水分と最低限の栄養素が同時にとれる、まさに<命の水>だ。
男性は、何度かそれを口に含み、それから一気にごくごくと飲み始めた。そうしてようやく、
「ありがとう……あんたは……?」
掠れた声で問い掛ける。それに対してエルビスは、穏やかな表情で、
「私は医者です。皆さんの力になりに来ました」
と告げた。それから、
「他にも生きてる方がいらっしゃるかどうか確かめてきますので、しばらくここでお待ちください」
そう口にして、水筒はそのままに、村を見て回った。ここでは他にも二人、男性がかろうじて生きていた。その二人にも同じように水筒を渡す。そのために複数個持ってきていたのだ。
それから村にあった古びた荷馬車を馬に繋ぎ、荷台に干し草を敷き詰めてそこに三人を寝かせ、町へと引き返した。
これを、エルビス以外にも何人もが行っている。
完全に同時に周囲の村々を回れなければ間に合わない事例も出てくるだろうが、人員には限りがあるため、すべてに確実に手を差し伸べることはできない。その事実も承知の上で、エルビス達は最善を尽くす努力をしていた。
ついつい焦れてしまうところを、鋼のような精神力で抑えているようだ。
こうして男性らを町まで連れてきたが、今度は他の診療希望者らと一緒に収容された。エイスネらとは扱いが異なっている。もちろん、きちんとシチューは出してもらえて、ケアも受けられたが、完全にマンツーマンという形でスタッフが付いているというわけでもない。
エイスネは何か特別な配慮が必要な存在だったということであろうか。
だがそんなことに今は拘泥している場合ではなかった。そろそろ日も暮れてきたというのに、エルビスはまた馬を変えて、ソーセージを挟んだだけのパンを鞄に入れて町を出ていった。それだけでも途轍もないスタミナだろう。いくら使命感に突き動かされているのかもしれないとは言っても、ドロレスも彼を止めようともしないというのももはや不可解と言えたかもしれない。
にも拘らず、日が暮れ始めた道で馬を走らせるエルビスの表情は、むしろ生気に満ちていたような印象さえあった。普通なら疲労困憊していてもおかしくないはずなのに、逆に日が高かった頃よりも生き生きとしてるのだ。
さらに、もはや輪郭を捉えるのも困難になってきている夕闇の中でも、彼の眼は爛々と輝いていたのだった。
男性は、何度かそれを口に含み、それから一気にごくごくと飲み始めた。そうしてようやく、
「ありがとう……あんたは……?」
掠れた声で問い掛ける。それに対してエルビスは、穏やかな表情で、
「私は医者です。皆さんの力になりに来ました」
と告げた。それから、
「他にも生きてる方がいらっしゃるかどうか確かめてきますので、しばらくここでお待ちください」
そう口にして、水筒はそのままに、村を見て回った。ここでは他にも二人、男性がかろうじて生きていた。その二人にも同じように水筒を渡す。そのために複数個持ってきていたのだ。
それから村にあった古びた荷馬車を馬に繋ぎ、荷台に干し草を敷き詰めてそこに三人を寝かせ、町へと引き返した。
これを、エルビス以外にも何人もが行っている。
完全に同時に周囲の村々を回れなければ間に合わない事例も出てくるだろうが、人員には限りがあるため、すべてに確実に手を差し伸べることはできない。その事実も承知の上で、エルビス達は最善を尽くす努力をしていた。
ついつい焦れてしまうところを、鋼のような精神力で抑えているようだ。
こうして男性らを町まで連れてきたが、今度は他の診療希望者らと一緒に収容された。エイスネらとは扱いが異なっている。もちろん、きちんとシチューは出してもらえて、ケアも受けられたが、完全にマンツーマンという形でスタッフが付いているというわけでもない。
エイスネは何か特別な配慮が必要な存在だったということであろうか。
だがそんなことに今は拘泥している場合ではなかった。そろそろ日も暮れてきたというのに、エルビスはまた馬を変えて、ソーセージを挟んだだけのパンを鞄に入れて町を出ていった。それだけでも途轍もないスタミナだろう。いくら使命感に突き動かされているのかもしれないとは言っても、ドロレスも彼を止めようともしないというのももはや不可解と言えたかもしれない。
にも拘らず、日が暮れ始めた道で馬を走らせるエルビスの表情は、むしろ生気に満ちていたような印象さえあった。普通なら疲労困憊していてもおかしくないはずなのに、逆に日が高かった頃よりも生き生きとしてるのだ。
さらに、もはや輪郭を捉えるのも困難になってきている夕闇の中でも、彼の眼は爛々と輝いていたのだった。
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