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第六幕

君はもう大丈夫

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<ほぼ死体と変わらなかったそれ>から<いかにも具合の悪そうではありつつ今すぐ命に関わりそうという印象とまでは言えないそれ>になった少女は、先ほどまではせいぜい十歳くらいに見えていたものが、十二~三歳くらいに見えるようになっていた。どうやらそちらが少女の本来の年齢に近いらしい。

極度の栄養失調のために損なわれていたものが回復したということだろうか。

「……私は……?」

青白い虚弱そうな顔になった少女が声を漏らす。

「これは……私……? どうして……?」

ほとんどミイラのそれ同然だった自身の手が、青白い不健康そうなものではありつつ少なくとも『ミイラ同然』ではなくなったことに呆然としていた。それから視線を移して、自分の傍らで倒れている女性の死体を見て、

「ママ……ママぁ……」

ポロポロと涙をこぼし始める。すでにその女性が、<母親>が死んでいることは承知していたのだろう。死んだ母親に抱かれた状態で、彼女も自身の命が尽きるのをただ待っていた状態だったのだと思われる。さらに、

「う……ぶえ……っ!」

少女は突然、自身の口を両手で抑えて、その場に嘔吐した。

「うえ……え……えへっ……!」

何度も何度も吐き戻すが、それはすべてただの泡立った胃液だった。固形物は一切混じっていない。胃の中には何も入っていなかったということか。

そんな少女の背を、エルビスがそっと撫でる。ミイラ同然だった少女の姿の変化には、まったく動じていない。まるでなぜそうなったのかその理由を知っているかのように。

「……誰……?」

胃液すら吐けなくなった少女が、涙と鼻水と吐瀉物にまみれた顔を上げて視線を向けて、問い掛ける。

「私は医者だ。君はもう大丈夫。命に別状はない」

ポケットからハンカチを取り出して少女の涙を拭き鼻水を拭きそれから口の周りの吐瀉物を拭き取りつつ、エルビスは穏やかにそう答えた。

「私……なんで……? どうして、これ……」

少女は改めて自分の手を見ながら困惑を口にする。それに対しても、エルビスは、

「君は生まれ変わったんだよ……新しい命を得て、ね……」

やはり穏やかに言葉を掛ける。まずはそれを承知してもらって、落ち着いてから具体的な事情を話すつもりだった。

けれど少女は、

「どうして、私……パパを食べちゃったのに……! パパを食べちゃったからその罰を受けて、死ななきゃいけなかったのに……!」

とまで口にしたところで、

「ぐ……っ!」

またえずいて両手で自らの口を覆ったのだった。

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