ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

文字の大きさ
上 下
601 / 697
第六幕

惨状を前にしても

しおりを挟む
そのようにして死んだ人間の肉を食ってまでもなんとか生き延びようとしたにも拘わらず、調理した肉自体がすでに腐敗していたことで食中毒を起こし、飢餓により弱っていた肉体は回復できずにそのまま死んでしまったのだろう。

家の中には、吐瀉物や下痢便を撒き散らした状態で事切れたと思しき遺体もあったのだ。

あまりにもあまりな惨状を前にしても、エルビスは沈痛な表情はするものの取り乱したりはしなかった。医師としてヨーロッパ中を回って様々な過酷な現場を見てきたことで慣れてしまっていたというのもあるのかもしれない。

そのようにして、生存者がいないかどうかを確認するために家々を巡っていたエルビスは、何軒目かの家の前に立った時に、

「……呼吸音……!?」

極めて小さく弱く、今にも止まってしまいそうなそれであったものの確かに人間の呼吸音を聞き取り、彼は、壊れてまともに動かなかった扉を、まるでポスターでもはがすように取り除いて室内に踏み込んだ。そこにもやはり、家族と思しき数人が倒れていた。もっとも、一見してもうすでに死んでから相当な時間が経っているというのが分かってしまうものばかりだったが。

なのに、確かに呼吸音がする。生きている者がどこかにいるのだ。

すると彼は、床に蹲るようにして倒れていた女性の体に触れた。その女性は間違いなく死体でしかなかったが、わずかに動かすと、もう一人、いた。もはや死体と変わらないほどに土気色になって乾燥しきった肌をしていたものの、

「生きてる……!」

エルビスが声を上げる。

それは、十歳くらいにも見える子供だった。文字通り骨と皮で目も落ちくぼみ、見えているかどうかさえ分からないそれを、確かに彼の方に視線を向けた。

だが、そうして目を動かすだけで最後の力を使い切ってしまったのかもしれない。ふっと、呼吸が止まったのだ。

「!」

瞬間、エルビスはその少女に覆いかぶさった。そして―――――

「ふ……ひゅう……」

少女の呼吸が戻る。それどころか、いかなる<奇跡>によるものであろうか、もはや死体と変わらなかった少女の体が、いわゆる<モーフィング>と呼ばれる映像処理でも見るかのようにみるみる本来の姿へと戻っていったのだ。さすがに『健康的な』とまではいかなかったものの、少なくとも命の危険があるような印象を受けるそれではない姿へ。

極度の栄養失調によるものか大半が抜け落ちていた髪さえも、恐ろしいまでの勢いで生えて戻っていく。栗色の艶やかな柔らかい髪だった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

髪を切った俺が芸能界デビューした結果がコチラです。

昼寝部
キャラ文芸
 妹の策略で『読者モデル』の表紙を飾った主人公が、昔諦めた夢を叶えるため、髪を切って芸能界で頑張るお話。

今日の授業は保健体育

にのみや朱乃
恋愛
(性的描写あり) 僕は家庭教師として、高校三年生のユキの家に行った。 その日はちょうどユキ以外には誰もいなかった。 ユキは勉強したくない、科目を変えようと言う。ユキが提案した科目とは。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

処理中です...