ショタパパ ミハエルくん

第六幕

アイルランドへ

元テロリストで、唯一の家族だった実の妹を仲間のテロリストに人間爆弾に仕立て上げられた上にその最後を目の当たりにしてしまって心が壊れた少年を眷属にして迎え入れた僕達は今、アイルランドに来ていた。

この国も複雑な歴史を経てきたこともあって、様々なわだかまりを抱えてもいる。なにしろかつては、＜グレートブリテン及び北アイルランド連合王国＞いわゆるイギリスから植民地支配を受けていたからね、そういう意味でも決して晴れやかな関係でもないみたいだ。

しかも、＜北アイルランド＞は今なお＜グレートブリテン及び北アイルランド連合王国＞の一部であり、アイルランドへの帰属を求めた激しいテロの発信地ともなった。

それ自体は、形の上ではテロ組織の主体となっていた勢力が休戦協定に応じたことで体裁の上では収まったことになっているけど、実際にはそれに納得できなかった強硬派が分離してその後もテロを続けてたりもしていたりも。

ただ、その強硬派の活動も、最近では目立たなくなってるらしい。

＜暴力による解決＞を標榜してきたにもかかわらず、本来の結果を果たせないまま息切れした形と言えるかな。もちろん、今後も息を吹き返す可能性は否定できないけれど、それはもう、活動の中心になっていた人間達のそれじゃなく、自分達の行いを正当化するための＜大義名分＞として利用しようとしているだけの人間達によるものなんだろうなって気がする。

ましてや、テロが盛んだった頃に生まれてさえいなかった者達にとってはそれこそ何の実感もないことのはずだから。

僕が眷属にし、家族として迎えた少年＜イゴール＞も、テロリスト達が自分達の活動の根拠としている諸々が起こったのは、イゴールが生まれる以前のことで、彼は直接それを経験していない。

その諸々から連なる事象の中で祖父や両親を喪ったからまったく無関係というわけでもないとは言え、直接は知らないんだ。

なのに、自分の復讐とは何の関係もない幼い子供まで巻き添えにすることを＜必要な犠牲＞と称して正当化しようとするのがテロリストというものだよ。イゴールの妹のオレーナよりもずっと幼い子供も、彼の仲間だったテロリスト達が実行したそれで亡くなっている。

イゴール自身は最初の自爆テロに失敗したことで直接誰かを害してはいないけど、人間爆弾にされたオレーナの件では、たまたま通りがかった数人が死亡、数十人が負傷してる。だからオレーナは、＜テロの実行犯＞として憎しみを向けられているんだ。

彼女自身は何も知らされていなかったはずなのにね。