ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

今最も必要な情報

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元人間で、眷属として吸血鬼になった先輩としてのアンドリーイの話を、イゴールは食い入るようにして聞いていた。彼にとっては今最も必要な情報だったんだろうな。

その点で言えば、元々吸血鬼として生まれた僕やダンピールとして生まれた安和アンナの話は、イゴールにはピンとこないかもしれない。

だからこそ、こうやっていろんな相手と交流を持ち、話を聞く必要があるんだ。人間だった時のイゴールの周りには、偏った情報ばかりをもたらす者達しかいなかったんだろう。それが一層、彼の視界を狭めていったんだと思う。

不幸な生い立ちを持つ者がその境遇を恨まずにいられる事例があるのは、結局はそれを補填してくれる<出会い>があればこそだ。それもなく本人の努力だけで正しくいられるなんていうのは、<おとぎ話>でしかない。なにしろ、正しくいられるために必要な情報も何も示されなければ、自らを律するための指針さえ得られないんだからね。

人間の中にはその当たり前の話さえ理解しようとしないのもいる。自分が誰かを気遣うことをしたくないから、慮ることをしたくないから、他者の存在を認める努力をしたくないから、事実を事実として認めようとしないんだ。

それが結局、自分自身の不平不満の原因になっている事実からも目を逸らしてね。

すると、アンドリーイは、

「眷属として吸血鬼になった僕を息子として受け入れてくれた二人が受け止めてくれたからこそ、僕は僕自身を受け入れることができた。吸血鬼として生まれた僕を認めることができた。過去の境遇を恨む必要がないと感じることができた。

吸血鬼になったことを不幸だと感じるかどうかも、結局は誰と出会いどう自分の存在を自覚していくかだよね。嫌な思いしかしなかったら吸血鬼になったのはただの不幸でしかないけど、そうじゃなかったら幸せにもなれる。幸せになれるきっかけを掴むことができる。

自分一人だけだったら自分というものを認識することさえ難しいのは、人間も吸血鬼も変わらない。確かに吸血鬼の超感覚があれば他の生物の自我さえ掴むことはできるけど、でも、自分とあまりに違い過ぎても上手く比較ができないよね。ある程度は自分に近い存在がいて、それと比較してこそ<違い>というものもはっきり認識できるんだから。

正常な状態のものをまったく知らずに異常な状態のものを見ても、何がどう異常なのか分からないし。<よい手本>というものはやっぱり必要なんだよ」

僕がイゴールに語りたかったことを語ってくれたんだ。

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