ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

俺は……死んだんだな……

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『あいつのいないこの世なんか、生きてても仕方ない……』

唯一の家族である妹の死を目の当たりにして自暴自棄になったイゴールに対して、僕は容赦なく吸血した。眷属にするための吸血だった。

そして<閾値>を超えた瞬間、彼の存在そのものが途轍もない勢いで、

『書き換えられて』

いくのが分かった。細胞レベルどころか、彼の全存在のあらゆるものがまったく別のそれに変化していくんだ。これこそが、

『眷属にする』

ということだ。人間じゃなく吸血鬼になるんだから当然だけど。

「な……あ……?」

記憶はそのままなのに、人格自体はそのままなのに、<認識>だけがまるで別物になっていく感覚に、彼は戸惑っていた。

「お前、何を……」

とは口にしたけど、彼自身、もう人間じゃ知覚できなかったものまで知覚できるようになって、悟ってしまったらしい。

「俺は……死んだんだな……人間としちゃ……俺は人間じゃないものになっちまったのか……」

すべての能力が使いこなせるようになるまではさすがに多少の時間もかかるのは事実だとしても、<超感覚>を理解するのはすぐには無理だろうけど、自分が人間とは違うものになったのは実感できたみたいだ。

「なんだこれ……オレーナのことは覚えてんのに、胸はまだこんなに痛いのに、どうしてこんなに冷静なんだ? 俺……」

彼が思わず漏らした言葉がすべてだと思う。

「眷属に、吸血鬼になったことで、人間としての感覚はもう失ったんだよ。だから人間だった時の感情はただの<記憶>だ。今の君の感情じゃない」

僕が簡潔に応えると、

「そうか……」

彼にも分かってしまったみたいだ。彼自身も今はもう吸血鬼だから。

僕にとってはこれで『三人目の』眷属だ。前の二人についてはまた別の機会があれば触れることもあると思うけど、別に大して重要なことでもないから触れないかもしれない。いくら<眷属>といったって、僕とは別の存在だからね。それぞれの生き方がある。

「余計なことをしやがって……とは、正直、思う。ただ、俺が死んだってオレーナのところに行けるわけじゃねえってのは、感じた。分かったよ」

寂しそうに微笑む彼を見て、改めて思う。

『眷属になるというのは、こういうことなんだ』

って。人間じゃなくなることで、人間だった時とは違ってしまうんだって。オレーナを想って死を望んだイゴールでさえ、こうして冷静になれてしまう。

だからこそ、アオは眷属になることを望まなかった。人間であることを望んだ。今の気持ちが変わってしまうのが嫌だったんだ。

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