ショタパパ ミハエルくん

京衛武百十

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第五幕

ダンピールとしての精神性

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眷属にするギリギリまで吸血したところで、僕は安和アンナと共にイゴールを支えてその場を後にした。<オレーナの遺体>は敢えて回収しない。それは警察なり軍なりに任せる。

これほどの状況でも、安和は、険しい表情はしつつも取り乱したりはしなかった。彼女ももう、ダンピールとしての精神性は確立されてるということだね。

人間として考えるとこの状況でこの程度の反応で済んでるというのはむしろ心理状態に異常を生じてることを懸念しないといけなかったりもするけど、吸血鬼やダンピールは人間とは違うから。人間だって、他の動物が死ぬ瞬間を目撃しても、

『可哀想』

とは思っても酷く取り乱すことはそんなにないよね? ましてや十代半ばともなれば。

自分の子供にこんな経験をさせることを嫌悪する人間もいると思うけど、でも僕だって人間である椿つばきにはここまでの経験をさせようとは思わないよ。あくまで悠里ユーリと安和がダンピールだからだ。人間と同じ生き方はできないからこそ、この世界がどういうものかを、僕が傍でフォローができるうちにしっかりと理解しておいてもらわなきゃいけない。ダンピールとしての力を持つ以上は、目先の感情だけで自身の振る舞いを決めてもらっては困るんだ。それは他でもない、悠里や安和自身が不幸になる原因だよ。

人間も、目先の感情にばかり振り回されているからこそ、テロなんてことを起こすんじゃないの?

『自分達の国を自立させる』

という目的よりも、目先の感情を優先するんじゃないの?

どんな言い訳を並べたところで、わずか十二歳のオレーナを人間爆弾にしてあんな死に方をさせるようなことを正当化できないと思うけどね。

だけどそれでも正当なものと考えるような人間にとっては、イゴールの前に転がってきたオレーナの頭さえ、ただの<物>にしか見えないんだろうな。それが生きていた人間の一部だということが感覚として理解できないんだろう。理解できるならあんなことをしなきゃいけない理由なんて思いつかないんじゃないの?

「オレーナ……オレーナ……」

駅から退避している間も、イゴールはうわ言のように妹の名前を口にしていた。吸血の影響で人間性が強く抑制されているはずなのにだ。

それだけ彼にとっては大きな存在だったということだよね。

テロリスト達がここまで性急にことを運ぶとは僕も予測しきれなかったとはいえど、

「イゴール。すまなかった……オレーナを助けられなくて……」

口にせずにはいられなかった。

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