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第五幕
君が望むなら
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『自身の崇高な目的のためには命さえ惜しくない!』
『大切なものを守るためなら命さえ惜しくない!』
人間は軽々しくそういうことを口にするけど、僕にはそれが本当に空虚なものにしか聞こえないんだ。
都合の悪いことには目を瞑って、虚勢を張ってるだけにしかね。
その<崇高な目的>というものがどういうものかを、本当に分かっているの? 誰かに言われたことを盲目的に信じてるだけじゃないの?
大切なものを守って死んだら、その<大切なもの>がその後どうなっていくのか本当に考えたことはあるの?
「オレーナというのは、君の妹?」
問い掛ける僕に、イゴールは、
「そうだ……俺のたった一人の家族だ……」
震えながら応える。
「君は妹を守りたいから戦おうとしてるんじゃないの? その君が死ねば、次は妹が自爆テロを行うことになるんじゃないの?」
さらに問い掛ける僕に、彼は、
「そんなことない……! 仲間は、『オレーナを守るためにはお前が戦うしかないんだ』って言ってたんだ……だから俺は、オレーナを守るために……!」
ほとんどうわ言のようにそう口にして。僕が指摘した部分を頭の中で必死に否定しようとしてるのが見えるようだった。<都合の悪いこと>をなかったことにしようとしてるんだ。
『自分が戦えばオレーナを守ることができる』
と考えるために。
それでも、<都合の悪いこと>を完全には頭から追い払うことができないようだね。唇まで真っ青にして、ガクガクと震えている。
だから僕は提案したんだ。
「もし君が望むなら、オレーナのことも救い出して、君と一緒に国外に連れ出すこともできる。僕達にはそれができる。それができるルートがある」
けれど彼は、
「なに言ってんだ……? そんなこと……」
と言うけど、それに対しても、
「でも、君達の仲間の中には、他所の国から正規じゃないルートで入ってきたのもいるんじゃないかな? 君の仲間にできることが僕達にできないとなぜ言えるのかな? 僕達は君が自爆テロをしようとしてることさえ、造作もなく止められたんだよ? その僕達にできないと考えられる根拠は?」
さらに問い掛けた。
すると、イゴールは、真っ青な顔のままで、
「本当に、オレーナを助けることができるのか……?」
縋るような目を向ける。
「君が望むなら」
僕はきっぱりと応えた。それが決め手になったのか、
「オレーナを、助けてくれ……! 俺は、あいつを死なせたくない……!」
ついにそう口にした。その時の彼の顔は、ただの子供のそれだった。
「分かった。じゃあ、今から迎えに行こう」
『大切なものを守るためなら命さえ惜しくない!』
人間は軽々しくそういうことを口にするけど、僕にはそれが本当に空虚なものにしか聞こえないんだ。
都合の悪いことには目を瞑って、虚勢を張ってるだけにしかね。
その<崇高な目的>というものがどういうものかを、本当に分かっているの? 誰かに言われたことを盲目的に信じてるだけじゃないの?
大切なものを守って死んだら、その<大切なもの>がその後どうなっていくのか本当に考えたことはあるの?
「オレーナというのは、君の妹?」
問い掛ける僕に、イゴールは、
「そうだ……俺のたった一人の家族だ……」
震えながら応える。
「君は妹を守りたいから戦おうとしてるんじゃないの? その君が死ねば、次は妹が自爆テロを行うことになるんじゃないの?」
さらに問い掛ける僕に、彼は、
「そんなことない……! 仲間は、『オレーナを守るためにはお前が戦うしかないんだ』って言ってたんだ……だから俺は、オレーナを守るために……!」
ほとんどうわ言のようにそう口にして。僕が指摘した部分を頭の中で必死に否定しようとしてるのが見えるようだった。<都合の悪いこと>をなかったことにしようとしてるんだ。
『自分が戦えばオレーナを守ることができる』
と考えるために。
それでも、<都合の悪いこと>を完全には頭から追い払うことができないようだね。唇まで真っ青にして、ガクガクと震えている。
だから僕は提案したんだ。
「もし君が望むなら、オレーナのことも救い出して、君と一緒に国外に連れ出すこともできる。僕達にはそれができる。それができるルートがある」
けれど彼は、
「なに言ってんだ……? そんなこと……」
と言うけど、それに対しても、
「でも、君達の仲間の中には、他所の国から正規じゃないルートで入ってきたのもいるんじゃないかな? 君の仲間にできることが僕達にできないとなぜ言えるのかな? 僕達は君が自爆テロをしようとしてることさえ、造作もなく止められたんだよ? その僕達にできないと考えられる根拠は?」
さらに問い掛けた。
すると、イゴールは、真っ青な顔のままで、
「本当に、オレーナを助けることができるのか……?」
縋るような目を向ける。
「君が望むなら」
僕はきっぱりと応えた。それが決め手になったのか、
「オレーナを、助けてくれ……! 俺は、あいつを死なせたくない……!」
ついにそう口にした。その時の彼の顔は、ただの子供のそれだった。
「分かった。じゃあ、今から迎えに行こう」
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