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第五幕

本当にただふわっとした<気分>

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そうして買い物を終えた僕と安和アンナは、食事をするためにレストランに向かおうとしていた。だけどその時、

キュアアーッ! バシャン!!

という激しい音。

『事故!』

すぐにピンときた。自動車同士が衝突した時の音だ。しかもかなりの速度が出ていた時の。だからと言って僕達が迂闊に手出ししても仕方ないから、取り敢えず様子を見るだけにとどめる。

……つもりだったけど、その現場にあったのは、もう原型をとどめていなかったスポーツカーと、警察が容疑者の移送に使う大型のワゴン車だった。さすがに移送車の方はそうと分かる形を保っていたものの、横転し、後部のドア付近はめちゃめちゃに壊れて開いてしまっていた。曲がろうとしていた移送車の後部側面に速度違反のスポーツカーが衝突したんだろうな。

しかもそこから、手錠を掛けられた者達が何人も這い出してきて、四方八方へと逃げていく。すると、移送車に乗っていた警官が事故で負傷したらしく血を流しながらも銃を構えて発砲する。その一発が、僕達目掛けて飛んできた。だけど安和は慌てることなくそれを空中で叩き落とした。彼女にももうその程度のことは造作もなくできるんだ。

容疑者を逃がさないためとはいえ、こんな街中で発砲するというのも無茶な話だね。

それでも、何人かには命中してその場に倒れたりした。通りがかった市民らはほとんどが伏せている。さすがにこういうことが珍しくない国で暮らしてるだけはあるということかな。

でも、移送車から抜け出した内の数人は、逃げ延びてしまった。そして僕達の方に銃弾が飛んでくる原因となった一人も、ビルの陰に逃げ込んで躱す。

「あいつ、空港の……」

安和がそう口にした。

「ああ、そうだね。空港の時の少年だ……」

僕も応える。間違いない。空港で自爆テロを行うためにプラスチック爆弾を体に付けてた少年だ。移送されるところだったのか。

人間の場合はここでその少年を捕らえて改めて警察に引き渡すべきところなんだろうけど、人間の法律が及ばない僕達にはその義務もない。そして僕達には、その少年が積極的に自発的にテロに関わっていたわけじゃないのは、察せられていた。明確な<殺意>がないんだ。<殺意の臭い>がしないんだよ。

強い憤りは確かにあるんだけど、それはまだまだ曖昧で、なんとなく周りに影響されてそう思い込んでるだけのものだというのは、僕には分かった。そういう人間をたくさん見てきたからね。周囲の大人が吹聴していることに感化されて、実際にははっきりと明確な意志じゃなく本当にただふわっとした<気分>に流されているだけの人間の匂いがしていたんだ。

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