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第五幕

藪を突いて蛇を出す行為

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一方的に暴力を振るい、しかも倒れた自分の娘に対して蹴りを入れようとしていたところに立ちはだかったセルゲイに、

『ガイジンに何が分かる! 邪魔だ! どけ!!』

と、口では勇ましいことを言いつつ実際には明らかに腰が引けていた父親だけど、

「おいお前! 親子のことに何を口突っ込んでんだよ! ガイジン!」

セルゲイの背後から彼の肩を掴んできた人間がいた。身長はほぼ互角、体格だけならセルゲイよりもがっしりとした印象のある大柄な男だった。眼前の<父親>よりは少し若いくらいかな。そしてその男は、グイッと力を掛けてきた。親子の話に口を挟んで言いがかりを付けてきた無礼な外国人を跪かせようとしたんだろうな。

けれど、セルゲイの体はそんなことではまったくびくともしない。それこそ、地面にしっかりと固定された重量数百キロの銅像でも押したかのようにね。

「な……!?」

確かに身長ではほぼ互角でも、体重や見掛けの筋肉量では明らかに自分の方が圧倒しているように見えるのにも拘わらずそれだから、その男もギョッとした表情になる。でも次の瞬間には、カアーッと顔を紅潮させて、さらに力を加えてきた。

でも、やっぱりビクともしない。

そしてセルゲイは、

「力で私を跪かせるのは、あなたには無理でしょうね。相手の力量を見極められないなら力に頼るのはやめておいた方がいい。藪を突いて蛇を出す行為だ」

あくまで穏やかに声を掛ける。

これが本当にただの<親子の話>であったのなら、こんな干渉はしなかった。けれど、セルゲイが言うように、相手が倒れるほどの勢いで頬を打ち、さらには倒れた相手に蹴りを入れようとするのは<話>じゃないよ。断じて違う。

ましてや仮にも<先進国>を名乗るのであれば、<風土や文化の違い>では済まされないこともあると理解するべきだろうね。

でないと他国と同じ土俵に立つこともままならないんじゃないかな。

もっとも、他の国でもいわゆる<伝統>を盾にして、<他者を虐げる行い>をいまだに正当化しようとしているところは珍しくないけどさ。

『子供をこの世に送り出す際、事前に子供本人に確認を取ったわけでも承諾をもらったわけでもない。何をどう言い訳しても親の側の身勝手な判断でしかない』

という現実とさえ向き合うことのできない人間がどれほど<現実の厳しさ>を説いても、空虚な絵空事でしかないよ。そんな幼児でも理解できる話から目を背けてる大人が何を理解してるって?

その程度のことも理解できないから、自分では決して勝てない相手とでさえ諍いを起こそうとするんだろうね。

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