543 / 697
第五幕
所詮は絵空事
しおりを挟む
『じゃあレギは、この料理を食べられないってのか……?』
ムジカの問い掛けは、まさしくその通りだ。そしてセルゲイも、
「そうだ。アレルギーというのは、そういう病気だ。他の誰が食べても問題ないものでも、そのアレルギーを持つ者が食べると命にさえ係わることがある。レギは、迂闊にカニを食べることができないんだ……」
悲し気に応えた。
「なんだよそれ! おかしいだろ!? なんでそんなことになるんだよ!? レギが何したって言うんだよ! まだなんにもしてないだろ!」
ムジカが憤る。彼の言うことはもっともだ。レギも<窓拭きの仕事>は始めていたものの、置き引きなどは始めていたものの、まだムジカほど犯罪に手を染めていない。なのに、ムジカにはアレルギーがなく、レギにはそれがあった。とても不公平な現実だよね。
「ああ、そうだな。君の言うとおりだ。どんなに誠実でも善意の人でも、<病気>というものは関係なくその人を蝕む。ただでさえそういう理不尽がこの世に溢れているんだから、そこにさらに意図的に理不尽を重ねるというのがどれほど愚かなことか、君達には知ってほしいんだ」
セルゲイがレギを搬送するための病院の手配をしつつ、ムジカに語り掛ける。そうして、
「レギの受け入れ先が見付かった。これから病院に向かう」
レギを抱き上げながら言った。けれどそれに対してムジカは、
「医者なんて……俺達みたいのを診てくれるわけないだろ……!」
忌々し気に吐き捨てて。だけどセルゲイは、
「大丈夫。私の知り合いがいる病院だ。今回のことは私の失態だから治療費などのことも心配要らない。すべて私が持つ」
毅然とした態度で告げてみせた。そうしてタクシーを手配し、ムジカ達を伴ってレストランを出る。救急車はあてにならないからタクシーなんだ。
その一方で、僕と悠里と安和は残って食事を続け、セルゲイから預かったカードで会計を済ませた。
レストランを出た僕達は気配を消し、走って病院へと向かう。
五分と掛からず到着すると、病室でレギがベッドに寝かされていた。セルゲイが手配してもらった個室だった。ムジカとヒアとニアナが、所在無げにソファに座っている。
「もう大丈夫だ。今は眠ってるけど、目が覚めたらそのままみんなを保護してもらう」
セルゲイの説明に、僕も、
「分かった。でもよかったよ。取り返しのつかないことにならなくて」
ホッとして応える。
「ああ、まったくだ。こういうことがあるから<完璧>なんてものは所詮は絵空事なんだと実感させられるね」
困ったように微笑むセルゲイに、
「……」
安和が黙って抱きついたのだった。
ムジカの問い掛けは、まさしくその通りだ。そしてセルゲイも、
「そうだ。アレルギーというのは、そういう病気だ。他の誰が食べても問題ないものでも、そのアレルギーを持つ者が食べると命にさえ係わることがある。レギは、迂闊にカニを食べることができないんだ……」
悲し気に応えた。
「なんだよそれ! おかしいだろ!? なんでそんなことになるんだよ!? レギが何したって言うんだよ! まだなんにもしてないだろ!」
ムジカが憤る。彼の言うことはもっともだ。レギも<窓拭きの仕事>は始めていたものの、置き引きなどは始めていたものの、まだムジカほど犯罪に手を染めていない。なのに、ムジカにはアレルギーがなく、レギにはそれがあった。とても不公平な現実だよね。
「ああ、そうだな。君の言うとおりだ。どんなに誠実でも善意の人でも、<病気>というものは関係なくその人を蝕む。ただでさえそういう理不尽がこの世に溢れているんだから、そこにさらに意図的に理不尽を重ねるというのがどれほど愚かなことか、君達には知ってほしいんだ」
セルゲイがレギを搬送するための病院の手配をしつつ、ムジカに語り掛ける。そうして、
「レギの受け入れ先が見付かった。これから病院に向かう」
レギを抱き上げながら言った。けれどそれに対してムジカは、
「医者なんて……俺達みたいのを診てくれるわけないだろ……!」
忌々し気に吐き捨てて。だけどセルゲイは、
「大丈夫。私の知り合いがいる病院だ。今回のことは私の失態だから治療費などのことも心配要らない。すべて私が持つ」
毅然とした態度で告げてみせた。そうしてタクシーを手配し、ムジカ達を伴ってレストランを出る。救急車はあてにならないからタクシーなんだ。
その一方で、僕と悠里と安和は残って食事を続け、セルゲイから預かったカードで会計を済ませた。
レストランを出た僕達は気配を消し、走って病院へと向かう。
五分と掛からず到着すると、病室でレギがベッドに寝かされていた。セルゲイが手配してもらった個室だった。ムジカとヒアとニアナが、所在無げにソファに座っている。
「もう大丈夫だ。今は眠ってるけど、目が覚めたらそのままみんなを保護してもらう」
セルゲイの説明に、僕も、
「分かった。でもよかったよ。取り返しのつかないことにならなくて」
ホッとして応える。
「ああ、まったくだ。こういうことがあるから<完璧>なんてものは所詮は絵空事なんだと実感させられるね」
困ったように微笑むセルゲイに、
「……」
安和が黙って抱きついたのだった。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
[恥辱]りみの強制おむつ生活
rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。
保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
見知らぬ男に監禁されています
月鳴
恋愛
悪夢はある日突然訪れた。どこにでもいるような普通の女子大生だった私は、見知らぬ男に攫われ、その日から人生が一転する。
――どうしてこんなことになったのだろう。その問いに答えるものは誰もいない。
メリバ風味のバッドエンドです。
2023.3.31 ifストーリー追加
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる